遺産隠しの構図
不動産会社への売却が決まっていたマンション用地の相続をめぐり、所有者が亡くなる直前に売買契約を解除したように装い、申告額を減らしていたとして、東京国税局が遺族に約13億円の遺産隠しを指摘したことがわかった。本来は売却金額で申告すべきだったが、解約によって低い土地の評価額で申告し、差額分を相続財産から不当に減らしたと認定したという。
追徴課税は重加算税を含めて約8億円とみられる。一方、遺族側は課税を不服として国税不服審判所に審査請求した。
関係者によると、問題となったのは、JR東小金井駅(東京都小金井市)前の約3千平方メートルの土地で、同市議を6期務めた土屋一治氏が所有していた。
土屋氏は、2014年5月にこの土地を都内のマンション開発会社に売却する契約を結び、同年10月に92歳で死去した。契約金額は22億円前後とみられる。死亡した時点で開発会社からの支払いは完了していなかった。
土地の相続をめぐっては、売却が決まっているケースでは、相続税は土地の評価額ではなく、契約代金をもとに計算される。契約代金を売却相手に請求する権利を相続したとみなされるためだ。
しかし、この土地の登記簿には、土屋氏が死亡する2日前に売買契約が解除され、遺族6人が土地を分割で相続。翌年1月に、遺族が相続した土地を開発会社に売却したと記録されている。
土地は、実勢価格よりも低い路線価で評価される。公示地価の8割にとどまり、都市部では実勢価格との開きはさらに大きい。
遺族側は、土地の評価額を9億円前後として申告したとみられる。
これに対し、国税局は、土屋氏が契約を解除した事実はなく、遺族側が死後に偽って登記したと判断。契約代金と土地の評価額との差額約13億円を遺産隠しと認定したという。
遺族側は弁護士を通じ、「契約解除の意思表示は生前に行われており、評価は売買価格ではなく不動産ですべきだ。申告に問題はなく審査請求した」とした。(磯部征紀、田内康介)