一回表を無失点に抑え、笑顔でベンチに戻る聖光学院の平野サビィ君=19日、阪神甲子園球場、北村玲奈撮影
(19日、高校野球 広陵6―4聖光学院)
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19日の第3試合で先発した聖光学院(福島)の投手、平野サビィ君(3年)は母が日本人、父がパキスタン人。幼少時を父の祖国で過ごしたが、野球の練習を通して、自分がいかにパキスタンについて知らないか、気づかされた。
平野君は日本で生まれてすぐ、家族とパキスタンのハリプールへ移った。首都イスラマバードから車で約1時間半。コンクリート造りの平屋建ての家で、ヤギや鶏を追いかけて遊んだ。「平和でのどかで、自然が多かった」と覚えている。
しかし、国内でテロが繰り返されるようになり、4歳の頃に日本へ。小学校の低学年までは両国を行き来したが、この10年はパキスタンを訪れていない。
「なぜパキスタンを離れなければいけないのか、何も分からなかった」と平野君。小学6年の時には国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者がパキスタンで殺害されて驚いたが、「次の日には事件を忘れていた」。
パキスタンへの思いが変わったのは、聖光学院に進学してから。野球は小3で始めてから夢中になったが、東京に住んでいた中学の頃は夜中に家から抜け出しては遊び回っていた。「不真面目でだらしない自分を変えたい」と、福島での寮生活を選んだ。
聖光学院では毎日の練習後、約1時間のミーティングを行う。「野球ができることへの感謝を忘れないようにしよう」「支えてくれる人がいるから野球ができる」と話し合ううち、恵まれた環境にいることを感じた。
そのとき、頭をよぎったのは「パキスタンではスポーツができるのだろうか」という疑問。だが、知識もなく、分からない。「第2の故郷のようなものなのに、何も知らないではダメだ」と感じ、図書室でパキスタンやテロについての本を借り、寮の部屋で読み始めた。
読書を通して、治安が悪いのは一部だけだと分かった。でも、読むほどもっと知りたい。将来はパキスタンへ渡り、そこで暮らす人たちの力になる仕事をしたいと思うようになった。そのため大学へ進み、テロや貧困問題、国語のウルドゥー語を勉強するつもりだ。
甲子園では強豪の広陵(広島)を相手に3回を投げ、2失点して降板。チームも4―6で敗退した。悔しさもあるが、大観衆の前でマウンドに立ったとき、「仲間が後ろにいるので、一人じゃない」と感じた。この経験を、パキスタンでも伝えたい。(石塚大樹)