試合終了後、スタンドへのあいさつを終えてベンチに戻る柿木蓮君(中央)を励ます徳山壮磨君(左)=19日、阪神甲子園球場、柴田悠貴撮影
(19日、高校野球 仙台育英2―1大阪桐蔭)
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「3年生と野球ができないと思うと悔しいです」。大阪桐蔭の投手柿木蓮(れん)君(2年)は、止まらない涙に何度も天井を見上げながら話した。19日の第4試合、春の王者、大阪桐蔭は仙台育英(宮城)に1―2で九回サヨナラ負けを喫した。
1点を守る九回裏。大阪桐蔭は2死をとった後、安打と四球、失策で満塁とされた。次打者に投じた2球目をはじき返され、走者2人が生還した。
直前の失策がなければ、試合は終了していた。柿木君はいったんマウンドを下りていたが、仕切り直しとなった。「気持ちで抜けたところがあったのだと思う。四球押し出しで同点になるのが怖かった」と柿木君。ストライクを取りにいった直球が高めに浮いた。
今春の選抜大会では、大量得点で勝った初戦の最終回に1回だけ登板した。しかし、与えた四死球は二つ。決勝の履正社(大阪)戦は先輩のエース徳山壮磨君(3年)が八回までを3点に抑えて優勝した。
「制球を鍛えないと、夏の甲子園では戦えない」。選抜後は、それまで軽口をたたくこともあった徳山君に教えを求めた。体の使い方や腕の力の入れ方、変化球の握り方。一人で黙々と走り込む姿を見て、エースの責任感を感じた。
この夏の甲子園。初戦の米子松蔭戦(鳥取)は、先発した徳山君が7回を1失点に抑え、継投の柿木君が失点0で快勝。2回戦の智弁和歌山戦は、徳山君が冷静沈着な投球で2―1で完投した。
柿木君はこの日、試合直前に先発登板を告げられた。2日前に127球投じた徳山君には20日の準々決勝で投げてもらうためのつなぎ役になろうと臨んだ。
序盤から得意の140キロ台の速球がさえる。中盤からは力を抜いた変化球を投じ、八回までを単打5本に抑えた。ベンチに戻るたびに、徳山君から「腕がちゃんと振れていない」「体が突っ込んで投球姿勢が崩れている」とアドバイスを受け、修正を繰り返した。
徳山君は九回、柿木君をマウンドに送り出すとき、「自分が後ろにいるから、思い切って行ってこい」と声をかけた。だが、徳山君にとってこの夏3回目の甲子園のマウンドは訪れなかった。
試合終了後の整列で、徳山君は柿木君の肩に手をかけ「この悔しさを忘れず、お前がエースとして引っ張っていけ」と、背番号1の重責を託していた。
柿木君は、「負けたらダメ。精神力も技術も足りず、粘りきれなかった」と振り返ったが、捕手の福井章吾主将(3年)は「投球内容は100点」。徳山君も「試合で投げられなかったのは残念だが、柿木の成長を見られたので良かった」と泣きながらかばった。
柿木君は甲子園の土は持ち帰らなかった。「絶対に戻ってくる。3年生の分まで春夏連覇して恩返ししたい」とはっきりと口にした。徳山君に対しては「感謝することしかありません」と言って、また泣き崩れた。(半田尚子)