2万個の貝殻で船小屋を覆った「サザエハウス」。奥能登国際芸術祭のアート作品の一つだ=石川県珠洲市
「半島の最先端」。そんな言葉を売りにした現代アートの祭典「奥能登国際芸術祭」が、9月3日から石川県珠洲(すず)市で初めて催される。交通手段が限られた「さいはて」の地。かつて住民を二分した原発誘致計画に揺れたまちは、芸術の力で地域の魅力発信をめざす。
濃さの違う青が空と海に広がる能登半島の先端、石川県珠洲市の外浦(そとうら)地区。8月上旬の週末、アーティストを手伝うボランティアサポーターが作品制作に使う海の漂着物を洗っていた。金沢市から休みのたびに通う会社員大音師希(おおとしのぞみ)さん(30)は「作品づくりを手伝う作業は、自分の力で作っている感じがあって楽しい。やりがいがあります」。
珠洲は東京から北陸新幹線で、大阪からJR特急でそれぞれ約2時間半で着く金沢からさらに特急バスで3時間弱かかる。農林漁業が中心で人口は約1万5千人と、市が発足した1954年当時の4割まで減った。過疎化が進むなか70年代には市が原発誘致に名乗りを上げ、関西、中部、北陸の電力3社が動いた。だが原発計画は推進派と反対派が激しく対立した末、2003年に事実上断念した。
地域振興策を模索する中で、北陸新幹線の金沢開業を控えた12年ごろ、香川・岡山両県で開かれている瀬戸内国際芸術祭などの成功に珠洲商工会議所が着眼した。「アートツーリズム(芸術観光)は不便な土地でやっても来客が伸びている」。瀬戸内のほか、「大地の芸術祭」(新潟)などを手がける北川フラムさん(70)を総合ディレクターに招くことにした。
同様の要望は全国各地からあり、北川さんは断ろうとしたというが、現地を訪れて考えを翻した。珠洲には巨大な灯籠(とうろう)が集落を練り歩く「キリコ祭り」や、民家で客をごちそうでもてなす「ヨバレ」の習慣が残る。「大陸や半島の遣唐使や渤海使(ぼっかいし)が流れ着いた、文化の特異点。この土地の力を作品にすれば」と引き受けた。
奥能登国際芸術祭にはベネチア…