「測候所」の屋上で、大気中の電気を測定する装置を点検する鴨川准教授。右には雷雲などを観測する小型のカメラが見える=14日、富士山頂、鬼室黎撮影
かつての富士山測候所を自然現象の観測拠点にしようと、建屋の一部を気象庁から借りて夏季の活動を行うNPO「富士山測候所を活用する会」が7月、山頂での観測10年を迎えた。高所を生かした貴重な活動への参加者はのべ4千人を超え、越冬観測に挑戦するプロジェクトもある。8月中旬、山頂を訪ねた。
3776メートルの剣が峰に立つ測候所は五つほどの建屋に分かれ、渡り廊下でつながっている。かつて富士山レーダーが設置されていた1号庁舎と4号庁舎は1964年に建てられた。所内には所狭しと観測機器が並ぶ。外は風が強く、気温は日中でも7度ほどだ。
「雷の名所」とも言われる富士山頂は、地上に比べて間近で雷を観測できる。NPOの理事で、雷雲や落雷から発生する放射線などを観測する鴨川仁(まさし)・東京学芸大准教授は「富士山頂では1キロ以内の落雷が珍しくなく、放射線の発生メカニズムを解明するデータを得やすい」という。夏の雷雲は放射線の原因となる電気の量を推定しやすいが、放射線は地上に届かないため富士山が絶好の観測地になる。
土器屋由紀子理事も「富士山は標高の高さに加えて、単独峰なので地上の影響を受けない大気を観測するのに最適な観測タワー」と口をそろえる。
地球温暖化の指標となる二酸化炭素(CO2)濃度は米国ハワイのマウナロア観測所(3397メートル)の数値が基準にされることが多いが、富士山頂でも2009年以来、国立環境研究所地球環境研究センターの向井人史センター長らが通年観測を実現している。その結果、今後は富士山頂のデータがアジア上空の代表値になりうることが分かった。電源は夏季しか使用できないため、零下15度を下回る冬季の観測用に電気を100個の蓄電池に蓄えている。
首都大学東京の加藤俊吾准教授…