■現・論 三浦瑠麗氏と歩く選挙の現場(上)
衆院選で各地の候補者が有権者に語りかけています。そこで発せられる言葉は、政治に限らず社会全体の問題や構図を映し出します。識者が現場に行って考える考察を「現・論(げん・ろん)」と名づけ、国際政治学者の三浦瑠麗さん(37)と愛知県に向かいました。山尾志桜里氏(43)の演説を聴いた三浦さんは、女性政治家の難しい立ち位置に思いを巡らしました。
スーパーで待機児童問題を訴えるJR名古屋駅から車で35分ほど東方にある日進市。愛知7区に無所属で立つ、元民進党の山尾氏は11日昼、スーパーの駐車場でマイクを握った。抑揚のある声で、保育園の待機児童問題への政府の取り組みの遅さを指摘した。憲法9条改正に言及した時は、「戦争をしていいことになる」と一段と声を張り上げた。
――保守派の論客とされる三浦さんは、山尾さんの街頭演説をどう聴きましたか。
私は自由と進歩を信じているので保守ではないんですね。山尾さんの演説は、9条への態度を含め、全体的に守りに入っていました。山尾さんは「リベラル」を掲げていますが、十分に革新的であるとの印象は受けませんでした。演説の中で訴えていた保育園が足りない、国政で子育て政策の優先度を上げろというのは、学者としても、母である個人としても大賛成です。介護施設への入所待ちの問題にも触れ、弱者のために働くとした。現体制の仕組みを維持しながらも、より弱い者に傾斜配分し、生活を守るというスタンスです。だからこそ、革新の夢を託す政治家というよりも少々「保守的」と映りました。
――山尾さんの声に最も力がこもり、聴衆が盛り上がったのは9条に言及した時でした。
支援者が盛り上がっていましたね。無所属としての彼女の選挙活動を支えているのが、護憲運動をしてきた人々が少なくないからでしょう。一般的にリベラル系とされる議員に当てはまる構図なのですが、政策上の必要性とは別の次元で、熱心な支持者のイデオロギーを意識することがあります。とはいえ、安倍晋三首相が北朝鮮の脅威を政治利用し、9条を改正しようとしているとの指摘には、訴える力があります。そうした側面が実際にありますから。
しかし、政治利用をしながら憲法9条に自衛隊を加えると、なぜ、戦争する国になるのか。かつてのPKO法、周辺事態法やイラク特措法の時にも、「戦争する国になる」というのは反対派が使ってきた立論です。実際にはそうなっておらず、護憲派はその説明責任を果たしていない。むしろ演説の中で言及された「歯止め」の具体策の提案が欲しかったですね。
演説を終え聴衆のもとへ演説を終えた山尾氏は、選挙カーからおりると、聴衆のもとに駆け寄った。幼児を抱えた母親と一緒に写真におさまることもあった。日進市の後に向かった、東郷町のスーパー前では、聴衆の1人から電話を託され、その場で通話をする姿も見られた。
――一緒に聴いた街頭演説で、山尾さんは無所属で比例復活がないことは話しましたが、週刊誌報道に触れることや、おわび、謝罪はしませんでした。
賢いやり方です。ご自身のブログにあるように、支援者には説明をし、頭を下げている。今日は一般の主婦やお年寄りに訴える日です。まっさらな状態で、週刊誌報道のこともこみこみで選んで下さい。選んでもらったら、こんなプラスがありますよと訴えるのでいいのです。
山尾氏の街頭演説を聴く三浦瑠麗さん=愛知県東郷町
――しかし、週刊誌報道は大きく報じられ、山尾さんに逆風になったのは間違いありません。
そもそも政治家であれ、芸能人であれ、不倫問題はテレビのワイドショーを中心に、そんなに時間をかけて扱う問題なのでしょうか。芸能人は人気商売だから有名税として取り上げられるのでしょうが、人権侵害の疑いをぬぐえません。
(下)女性政治家に「猟犬役」を強いる日本政治
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