7月に行われたバスケットボール女子日本代表国際強化試合でシュートを放つ長岡萌映子=吉本美奈子撮影
7日に開幕したバスケットボール女子のWリーグは、「アスリートファースト」の改革が進んでいる。今季から、選手がより移籍しやすくなるように規則を変更し、日本代表級の選手の移籍が実現した。2年前からは外国人選手の加入のルールも緩和されている。
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■Wリーグに大きな一歩
「世界で戦える選手になることで、育ててくれたチームに恩返ししたい」。7月のアジアカップで3連覇を達成した代表の主力でもある長岡萌映子(もえこ、23)は今季、高校卒業から5季プレーした富士通を去り、トヨタ自動車に移籍した。
これまでは所属チームの合意がなければ別のチームと交渉できず、主力の移籍は特に難しかった。それが今季からは、5月末までにチームと選手との間で契約延長が合意に至らなければ他チームとの交渉が可能になった。男子のBリーグではシーズン後半からはほぼ自由に他チームとの交渉を行える。チーム側がより強い権限をもっていたWリーグも、ようやく大きな一歩を踏み出した。
長岡は、米国人のドナルド・ベック監督が率いるトヨタへの魅力と、富士通ではメンバー構成上、代表と異なるポジションでプレーしてきたが、トヨタでは同じポジションができることが決め手となったという。さらに「先輩方が長年訴え、リーグがそれに応えた制度変更。最初のシーズンに誰も使わないのはよくない。私の移籍が日本のためになると思った」と使命感も口にした。
オフシーズンに海外リーグのトライアウトに挑戦した選手が契約に至らず、Wリーグでのプレー続行を希望する際の登録も可能になった。元日本代表の大神(おおが)雄子(トヨタ自動車)が中国のリーグとの契約が切れた後の2014~15年シーズン、Wリーグの登録期限が過ぎていたため戻れず、所属先がないシーズンを経験した。そうしたリスクが減り、海外挑戦のハードルは下がった。
トヨタ自動車は長岡のほか、アイシンAWからはアジアカップ代表の馬瓜(まうり)エブリン、シャンソン化粧品からは昨夏のリオデジャネイロ五輪代表の三好南穂を補強。リーグ全体では9人が移籍し、最近10年では日本航空のチーム譲渡に伴う移籍を除いて最多だった。
これらのルール緩和は、14年に男子のリーグが分裂していたことで日本バスケットボール協会が国際バスケットボール連盟から資格停止処分を受けた際、日本協会の改革を主導するタスクフォースでも、リーグ統合問題とともに指摘されてきたテーマだった。
■外国籍選手の加入緩和には賛否も
外国籍選手加入のルールも15~16年シーズンから緩和された。それまでは日本国籍を持つ、または国籍取得を申請中の選手だけを認めてきたが、日本での在留5年以上なら加入できるようになった。高校進学時に来日した選手らが、このルール変更のおかげでWリーグでプレーしている。
15年に岐阜女高が全国高校選抜優勝大会を制した時のメンバーでセネガルからの留学生、ディヤイ・ファトー(19)は同校を卒業後、滋賀文教短大に進学した。卒業時に日本での滞在が5年になり、最短コースでWリーグ入りすることを見越した進路だ。
旧日本リーグには93年まで外国籍選手がいたが、年俸の高騰などで登録を廃止した。今回の緩和は「慣れ親しんだ日本で頑張りたいという外国籍選手に門戸を開くこと」(Wリーグ・木下亮事務局長)が目的だが、競技力向上につながるという考えからより積極的な受け入れを求める意見がある一方、長身の外国籍選手にゴール下での争いを頼ることで「日本人のセンターが育たなくなる」と危惧する声もある。(伊木緑)