HAKUTOの探査機SORATO
冷戦時代、米国と旧ソ連による宇宙開発競争で目標となった月探査。数十年を経た現在、米財団による月探査レースが注目されている。挑むのは、日本を含む世界の民間チーム。宇宙開発は民間企業が大きな存在感を示す時代を迎えつつある。(田中誠士)
どうやって月面に行く?動画で解説
地球から約38万キロ離れた月に探査機を着陸させ、月面を500メートル移動して、地球に映像を送る――。こんな課題の月探査レースに向け、世界の民間チームが探査機の開発を進めている。
レースを主催するのは、米Xプライズ財団。来年3月末までに、最初に課題を達成したチームに賞金2千万ドル(約22億円)を贈る。同財団のデレック・ラン博士は「ねらいは、民間や非営利組織が月に行くことを実現することだ。起業家たちのつながりで、これまでとは違った宇宙探査を見ることができる」と話す。
ただ、道のりは険しい。2007年にレースの構想を発表後、11年に世界から29チームの参加が決まったが、技術的な難しさや資金不足で撤退が相次ぎ、現在残るのは5チームだ。
日本のチーム「HAKUTO」(ハクト)はその一つ。4輪の探査機「SORATO」(ソラト)を来年初めにもインドのロケットで打ち上げ、同国チームの着陸船に相乗りして月を目指す。
ハクトは代表の袴田武史さんらが2010年に作ったベンチャーが母体。小惑星探査機「はやぶさ」のサンプル採取などに関わった東北大の吉田和哉教授(宇宙工学)が技術責任者を務める。
ソラトは全長約60センチ、重さ約4キロ。車体は太陽電池や耐熱素材で覆われ、昼には100度以上の高温になる月面の過酷な環境に耐える。四つのカメラとレーザーで障害物を立体的にとらえ、地球の操作者に伝える。こうした技術が評価され、レースの途中段階で贈られる「モビリティー中間賞」を15年に受賞した。
袴田さんは「着実にステップアップを重ね、優勝に手が届きそうなところまで来た。エンジニアの努力が月面での走行につながるよう、チームをリードしたい」と話す。
インドのチームは着陸機も
ほかのチームも、独自の技術やねらいで月探査に挑む。
米国の「ムーン・エクスプレス」が手がける探査機「MX―1E」は、月面に着陸後、エンジンを噴射して移動する「跳躍型」。ジャンプで500メートルを移動する。
同チームは米航空宇宙局(NASA)と打ち上げから着陸、月面でのデータを提供する契約をしており、レース後はハクトと同様に月の水や鉱物資源の調査や、試料を地球に持ち帰る計画をもくろむ。ただ、米ベンチャーがニュージーランドから打ち上げる予定のロケットは開発が遅れ、レースの期限に間に合うか不透明だ。
イスラエルの「スペースIL」は、科学や技術、工学、数学を重視する「STEM(ステム)教育」を担うNPOが母体だ。レースの成功によって「イスラエルのアポロ」となり、子供たちに刺激を与えることがねらいだという。エノン・ランデンバーグさんは「宇宙産業は将来、イスラエルにとって大きな成長エンジンになる可能性がある」と期待する。
インドの「チームインダス」は、宇宙機関の元技術者が多く関わっており、探査車「ECA」のほか、着陸機も独自に開発。実績がある同国製のロケット「PSLV」で打ち上げる。スリダー・ラムシュバンさんは「月面への着陸と月面からの通信が最も重要な鍵となるだろう」と話す。
各チームにとって、資金の調達…