月2回の花戸医師の訪問診療で、笑顔をみせる端野マツエさん=滋賀県東近江市
琵琶湖の東に広がる滋賀県東近江市の永源寺地域では、高齢者の半数近くが自宅で最期を迎える。在宅看取(みと)りの文化を地域にもたらしたのは、18年前に赴任した永源寺診療所長の医師、花戸(はなと)貴司さん(47)だ。これまでの取り組みや患者との日々を、1月に出版した本につづっている。
介護とわたしたち
鈴鹿山脈のふもとの山間部にあり、豊かな自然に集落が点在する永源寺地域。高齢化が進み、住民5300人余りの、3人に1人が65歳以上だ。
「家にいられるのはみんなのおかげや」。何度も繰り返す一人暮らしの端野(はしの)マツエさん(82)。9年ほど前に認知症と診断されたが、愛犬テツとの「親子」のような暮らしを続けてきた。
お金の管理はもちろん、食事の用意、入浴、掃除もできない。それでも「家にいたい」というマツエさんの願いをかなえたいと、花戸さんがまとめ役となってケアチームを結成。食事や洗濯はヘルパー▽年金の管理や公共料金の支払いは社会福祉協議会▽見守りは近所の人々――と、それぞれが支える。離れて住む、おい夫婦を含め、体調のわずかな変化もチームで共有する。
笑顔の毎日を送っていたマツエさんだが、昨夏、テツが18歳で死んだ。「なんで動かへんのか」。マツエさんは二間だけの自宅で、ベッドに横たわるテツをいつまでも揺すっていたという。いち早く気付いた近所の主婦(60)がケアマネジャーに連絡。テツの死はその日のうちにチーム全員に伝わった。
環境の変化は認知症の悪化につ…