記者会見する野村泰弘さん(右)=14日、東京・霞が関の厚生労働省
「アリさんマークの引越社」を展開する引越社関東(東京)が、社外の労働組合に加入して交渉を求めた野村泰弘さん(36)を「シュレッダー係」に異動させたことなどを巡る一連の労使紛争が、中央労働委員会で一括和解した。野村さんと、加入する労働組合が14日に記者会見して明らかにした。和解は13日付。
「アリ地獄」改善求めたらシュレッダー係 給与は4割減
同社は引っ越し作業中に荷物が破損すると、担当の従業員の給与から弁償費用を天引きしていた。野村さんは2015年3月、社外の労組に入り、こうした制度の改善を要求。その後、営業職からシュレッダー係への異動を命じられ、同年8月に懲戒解雇された。会社側は解雇理由を「罪状」と記した野村さんの顔写真入りの文章を社内に張り出した。
野村さんが地位保全を求める仮処分を申し立て、同社は解雇を撤回。労組は一連の対応は不当労働行為にあたるとして東京都労働委員会に救済を申し立てた。都労委は17年8月、不当労働行為にあたると認め救済措置をとるよう命じたが、会社側はこれを不服として中労委に再審査を求めていた。野村さんは異動の無効などを求めた訴訟などを経て、営業職に戻った。
和解条項には、野村さんが加入する労組の組合員が引っ越し作業中に荷物を壊しても、故意や重い過失がなければ弁償金の負担を求めないと明記された。引越社関東と、同じ屋号で事業を展開する引越社(名古屋市)、引越社関西(大阪府吹田市)の3社を相手取り元従業員ら33人が弁償金などの返還を求めて東京、名古屋、大阪の各地裁に提訴した訴訟(請求総額約2億4千万円)も、会社側が解決金を支払うことで和解した。和解金額は非公開。
野村さんは近く退社し、加入する労組の専従職員になる予定という。一連の労使紛争はこれで終結するが、弁償金などの社内制度に疑問を感じている同僚は少なくないと指摘し、「労働環境の改善のために立ち上がる同僚がいれば、全力で支える」と話した。引越社関東は取材に「コメントは控える」としている。(村上晃一)