日本の安楽死論議
耐えがたい苦しみに襲われている患者や助かる見込みのない末期患者が、医師の助けを得つつ、自らの意思で死を選ぶ安楽死は「積極的安楽死」と呼ばれるのに対し、患者の意思により積極的な延命治療を行わないのは、「消極的安楽死」と呼ばれる。
橋田寿賀子さん「安楽死、もうあきらめました」
父は、安楽死する5分前に私と記念写真に納まりました―オランダ(GLOBE)
日本では、積極的安楽死について公の場で本格的に議論されたことはないが、一般財団法人「日本尊厳死協会」は、事実上の消極的安楽死を「尊厳死」と定義し、法制化を求めている。
2012年には、超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」が具体的な法案を公表したが、障害者団体の代表などの呼びかけで設立された「尊厳死の法制化を認めない市民の会」は、「患者本人に対して、治療を停止する圧力になりかねない」と反対している。
一方で、家族の要望で末期の患者への治療を中止した医師が警察に逮捕されたり書類送検されたりするケースが相次いだことから、厚生労働省は2007年、「終末期医療(現:人生の最終段階における医療)の決定プロセスに関するガイドライン」を策定した。
同ガイドラインによれば、患者の意思確認ができる場合は患者が意思決定を行うが、意思確認ができない場合は、家族が患者の意思を推定し、それを尊重した治療方針を行うことなどが示されている。ただし、治療を中止した医師が法的責任を問われる可能性は、ゼロとは言えず、法制化を求める声も根強い。
オランダでの手続きは
オランダで2002年に法制化された安楽死は、意図的に死を招く「積極的安楽死」になる。治療の中止や差し控えといった「消極的安楽死」は通常の医療行為と見なされる。
そのプロセスはどう進むのか。
「安楽死したい」という希望は、多くの場合、まずは家庭医に告げることになる。この国では、「家庭医」(かかりつけ医)の仕組みが発達しており、たいていの市民には、付き合いの長い気心の知れた家庭医がいる。
安楽死が認められるために必須となる条件は(1)患者本人による完全に自発的な要求であること(2)患者が、改善の見通しがない耐えがたい苦しみに襲われており、安楽死以外の解決策が存在しないこと(3)安楽死の担当医以外の医師が本人を診察し、安楽死の是非について意見(セカンドオピニオン)すること、などだ。安楽死のやり方は、患者自らが薬を飲む場合と、医師が静脈に薬を注入する場合の2種類がある。
オランダでは2016年、6091人が安楽死した。その7割近くが末期がん患者で、加齢によるさまざまな苦しみを原因とする安楽死は244人、認知症患者の安楽死は141人にとどまっている。
オランダでも安楽死を行うことに抵抗感を抱く家庭医は存在する。また、高齢者や認知症患者の安楽死については、安楽死の経験が乏しい家庭医では判断が難しいケースも多い。
すべての家庭医が安楽死を担えるわけではないため、オランダでは「終末期医療クリニック」と呼ばれる医師たちのネットワークが存在し、安楽死の是非の判断や実際の措置を行っている。