スポーツジャーナリストの中西哲生さん
サッカー日本代表の欧州遠征はマリと1―1、ウクライナに1―2と結果は伴いませんでした。この2戦をチェックします。
マリ戦で攻撃の可能性感じたのは
W杯で2戦目に当たるセネガルを想定したマリは、チームの力が明らかにセネガルより下でした。ただ、アフリカ選手の身体能力や1対1の局面で予期せぬような体の動きに対する、いいシミュレーションにはなりました。象徴的なのが、宇賀神がPKをとられたシーン。本人としては足が伸びてこないだろうと予測していたところに、相手の足が伸びてきました。本大会で先制点をPKで失うことになれば、取り返しのつかない大きいミスになります。それを避けるという意味では、いい教訓になりました。
チームとしてはアフリカ勢に対して、サイズのある選手を使う対応策もあります。ただ、逆に小柄で小回りが利き、相手の大きさを逆手にとれるタイプの選手を使う有効性が確認できたことも収穫でした。
具体的には先発した大島。彼が出ていた前半34分まで、日本にとってはいい時間帯でした。常に細かいステップを踏み、反転しながら受けたボールをほとんどミスすることなく、自分より前にいる選手に「デリバリー」をしていました。まさに配達するかのように、的確にボールを供給し、彼から攻撃のリズムをつくっていたといっても過言ではありません。
後半15分から出た中島も、ハリルホジッチ監督から様々な指示をされたはずですが、自分の良さを出す意識を強く持ち、失敗を恐れず仕掛けるメンタリティーが光りました。後半の得点につながるシーンは相手3人に囲まれた場面で小さく回って反転し、大柄な相手をはがしました。守備にまだ課題はありますが、スーパーサブでは有効なカードになるでしょう。
ウクライナ戦で分かった守備の改善点
仮想ポーランドだったウクライナは、ポーランドより力が落ちるとはいえ、最新の戦術を駆使してきました。日本はマリ戦を踏まえ、守備の部分を修正。ボールをどこで奪うか定めていましたが、相手の能力が高く、奪いたい場所で奪えないことがありました。ポーランドはさらに力が上です。奪いたい場所で2対1の数的有利をつくってクリーンに奪うことができれば、まだ改善の可能性はあります。
ただ、日本はマンツーマンで守ることを基本にしていますが、ウクライナはそれをみて、長谷部と山口の両ボランチの幅を広げてきました。2人がマークする選手がサイドに開き、長谷部と山口をついてこさせようにしたのです。それによって、センターバックの前のスペースが空き、縦パスを何度も入れられ、危ない状況になりそうな場面がありました。今の日本の「人についていく」という守備であると、そうならざるを得ませんが、ここはある程度、監督と選手がすりあわせをする必要があるでしょう。
ポーランドであれば、センターバックの前にいるのは、ブンデスリーガで2度の得点王に輝いているレバンドフスキであり、ミリクです。非常にレベルが高く、本番で2人に球が渡れば、致命的なプレーにつながる可能性が高くなります。マンツーマンかゾーンかではなく、局面によって両者を効果的に使い分けることが求められます。
ウクライナが日本の守備に対応してきたようなことは、W杯でも確実に相手はやってきます。試合の中で形を変えながら守ったり、攻めの形を模索したりすることは世界の主流だからです。つまり攻撃も守備も、相手に対して変動させていく柔軟な戦いをすべきだということが、改めて示されたということです。5月中旬からの代表合宿で、こういった陣形やパターンをいくつ構築できるか、それが今後のポイントとなりそうです。
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なかにし・てつお 1969年生まれ、名古屋市出身。同志社大から92年、Jリーグ名古屋に入団。97年に当時JFLの川崎へ移籍、主将として99年のJ1昇格の原動力に。2000年に引退後、スポーツジャーナリストとして活躍。07年から15年まで日本サッカー協会特任理事を務め、現在は日本サッカー協会参与。このコラムでは、サッカーを中心とする様々なスポーツを取り上げ、「日本の力」を探っていきます。