「再生エネの主力化」は、蓄電池などとの組み合わせが前提
2050年のエネルギー政策はどうあるべきか。経済産業省の有識者会合は、原子力発電の「依存度低減」と太陽光発電など再生可能エネルギーの「主力電源化」という二つの柱を打ち出した。ただ、再生エネの普及には技術革新という高いハードルがある。思うように進まないと、それを理由に原発が温存されかねない。
再エネを「主力電源」に、原発は維持 経産省会合が提言
「原発依存度低減は、福島事故がおこった国の責任からの姿勢を打ち出している」(環境ジャーナリストの枝広淳子氏)
「原子力産業は始めたら100年はやめられない。経営者としてなんとかやれるようにする義務がある」(中西宏明日立製作所会長)
提言をまとめた「エネルギー情勢懇談会」の10日の会合でも、最後まで意見がぶつかり合ったのは原発の扱いだった。
昨年8月からの議論を踏まえ、提言は原発について「依存度低減」と明記する一方、「脱炭素化の選択肢」とした。
ただ、「依存度低減」といっても、どの程度減らすかなどの数値は示しておらず、将来の新増設の余地は残している。また、一部メーカーが開発を進める新たな小型原子炉などを念頭に「安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求」との文言も入った。原発を将来にわたって維持しようという姿勢がにじむ。
もともと今回の会議は、この夏のエネルギー基本計画の改定に合わせて、世耕弘成経済産業相の肝いりでつくられた。
世論調査で原発再稼働への反対意見が賛成を大きく上回る中、経産省は基本計画の中に原発の新増設を後押しする文言の明記は見送る方向だ。一方で、国内の原発産業を維持するためにも、基本計画に長期的には原発が必要との文言を明記したい考えだ。提言が原発について「脱炭素化の選択肢」とのお墨付きを与えたことで、基本計画にも長期的な原発の重要性を明記しやすくなった。
安倍政権は30年度までに電源に占める原発の比率を20~22%にするとの目標を掲げ、30基程度を再稼働させる方針だ。だが、新規制基準のもとで再稼働した原発は7基にとどまる。安全対策費用がかさみ、電力会社は古い原発を次々と廃炉にする決定を下している。政権の姿勢と現実との差は広がる一方だ。
技術革新の課題
「主力電源化」を目指す再生エネは、世界的に価格低下が著しい。日本でも12年に始まった固定価格買い取り制度で導入量が増え、電源構成に占める割合は約15%と、30年度に22~24%にするとの目標に近づく。「独り立ちして、安定供給を担う主役になれる状況が見えてきた」(経産省資源エネルギー庁担当者)
天候次第で変動が大きい太陽光や風力は、余った電気を使う蓄電池や水素・メタン発電などと組み合わせて普及させる。電力の需給バランスを調整する火力依存から脱するためだ。水素を使う燃料電池車など、これらの技術は日本が世界的にも優位で、「シェアで後れをとった太陽光パネルや風力発電機の二の舞いを避けたい。国同士の覇権争いに勝つため、産業政策上も重要」(別のエネ庁幹部)。
ただ、現状では、蓄電池や水素発電などは割高で、相当な技術革新が進まなければ、ほかの電源に太刀打ちできない。専門家からは「日本はほかの国では主流となっている風力の導入が遅れている。再生エネの主力化には、送電線への接続など、今ある技術的、制度的な制約を取り除くことが先決だ」との指摘がある。
技術革新が遅れ、再生エネのコスト引き下げが進まなければ、「より割安」などとして原発を推進する口実にされるおそれもある。
また、提言では、化石燃料を「過渡期の主力」と位置づけた。石炭火力は、老朽化した非効率な施設は廃止していくが、海外支援を念頭に高効率の技術開発には力を入れる姿勢を示す。高効率とはいえ、二酸化炭素を大量に出す石炭火力の輸出には国内外から批判も強く、提言がうたう「脱炭素化」なのか、疑問の声が上がる可能性もある。(桜井林太郎、関根慎一)
有識者会合の提言骨子
・(発電で二酸化炭素を出さない)脱炭素化に挑戦する
・再生可能エネルギーは、経済的に自立し脱炭素化した主力電源化を目指す
・原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢
・可能な限り原子力発電への依存度を低減
・脱炭素化が実現するまでの過渡期で、化石エネルギーはなお主力
・2050年に向けて複数のシナリオを持ち、事態の変化に応じて目標を設定し直す