時紀行
ちまたにあふれる「ゆるキャラ」をよそに、リアルで怖い妖怪で町中が盛り上がる兵庫県福崎町。池の中から飛び出して人々を驚かせる河童(かっぱ)はSNSなどで拡散され、観光の目玉になっている。怖い物見たさで訪ねてみると、パンやケーキまでが河童の姿だった。
連載「時紀行」バックナンバー
(時紀行:時の余話)かっぱカレーが大ヒット
薄茶色に濁った池が突然、ブクブクと泡立つと、水面を割って黒髪の不気味な赤い妖怪が3匹飛び出してきた。頭には丸い皿。「河童だ」。見守っていた観光客らは歓声をあげ、母親に抱かれた幼児は泣きじゃくった。
人口が2万人を切る山あいの町、兵庫県福崎町。名もなき小さなこの池は、町の中心部の辻川山公園にある。河童の河次郎(がじろう)ら3匹が水中に姿を消し、静寂が戻るのもつかの間、今度は池の隣の広場で、小屋の中から宙づりの天狗(てんぐ)が飛び出す。妖怪「鵺(ぬえ)」や「山の神」の像などを見ながら公園内を巡っていると、すぐに15分が過ぎた。再び池の周りに人垣ができ、河童が姿を現した。
町職員の小川知男さん(44)が「ゆるキャラは話題にならない。リアルで子どもが泣くような怖いものを」と自らデザインし、2014年に初めて登場させた。「待ち時間が長すぎないように」と、河童の出現間隔も当初の30分から15分に変えた。
怖さで人を呼ぶ逆転の発想が話題になり、静かだった公園は一躍、人気スポットになった。その後もリアルな妖怪の像は増え、公園は「妖怪の聖地」と呼ばれるようになった。河童から始まった妖怪による町おこしの動きは、公園の外へと広がっている。
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