JR福崎駅前に設置されている河童の妖怪ベンチ=福崎町福田
池の中から姿を現すリアルで怖い河童(かっぱ)など、「妖怪」を活用した町おこしで知られる兵庫県福崎町で、妖怪の像と一緒に座れるベンチが3月下旬に新たに7基お目見えする。「遠野物語」や「妖怪談義」などを著したことで知られる民俗学者・柳田国男(1875~1962)の出身地で、柳田の著書に出てくる妖怪の写真を撮りながら町内を散策する「妖怪めぐり」が楽しめそうだ。
妖怪ベンチは昨年3月、JR播但線の福崎駅前に将棋を指す河童の「ガジロウ」、辻川山公園(同町西田原)に天狗(てんぐ)の計2基が登場した。ベンチの増設は新たな観光客の掘り起こしが狙い。妖怪と一緒に座って記念撮影ができるのが売りで、「インスタ映え」も意識したという。
新たなベンチの登場を前に、町内の妖怪の「名所」を歩いてみた。福崎駅でおりて、駅前にある河童のベンチに向かうと、将棋ブームもあってか、子どもたちが河童と一緒に写真を撮っていた。続いて妖怪ベンチが設置される予定の温泉施設(雪女)▽寿司(すし)店(天狗)▽肉店(猫また)▽スーパー(鬼)とまわり、河童伝説が残る市川のほとりの「駒ケ岩」へ向かった。
柳田は著書「故郷七十年」で、「子供のころに、市川で泳いでいると(河童に)お尻をぬかれるという話がよくあった」などと記している。大きな岩の上から川の中をのぞきこむと、まるで河童が飛び出してくるような感覚に襲われた。
その後も市川の東側で、ベンチを置く予定の肉店(海坊主)、町役場近くのパン店(一反もめん)などをまわった後、妖怪の「聖地」の辻川山公園へと足を伸ばした。
公園は池の中から姿を現す「河次郎(がじろう)」ら3匹の河童や、小屋から飛び出す天狗の像などで人気を集め、駐車場は満車になっていた。ここには「油すまし」のベンチが置かれる予定で、妖怪とふれあいながら散策できると感じた。
町によると、ベンチの妖怪は全国妖怪造形コンテストの入選者や町職員がそれぞれのデザインを考えた。制作費は総額約1千万円という。
昨夏から河童のケーキを販売する喫茶・ケーキ店「レ・ボ・プロバンス」の前には、一つ目小僧のベンチが設置される予定という。山崎寛史店長(39)は「妖怪ベンチの設置で、お店を知るきっかけにしてもらえたら」と期待を寄せる。
「辻川山公園の池の水がきれいにならないので、逆手にとって池から河童を出せないか」。妖怪による一連の町おこしのきっかけは2013年4月、当時の町幹部から町職員への提案だった。翌年2月、池から飛び出す河童の像を設けると、「リアルで不気味」と話題を呼んだ。
それを皮切りに、「全国妖怪造形コンテスト」も開催。最優秀賞に選ばれた作品をモチーフにした妖怪の像も、次々と公園内に設置。河童のカレー、プラモデルの販売なども進めてきた。その効果もあって町を訪れる観光客数は13年度の約24万8千人から、16年度は約41万5千人に急増した。
妖怪による町おこしの中心となっている町地域振興課長補佐の小川知男さん(44)は「来年度はさらにベンチを増やしたり、ベンチの場所を記した地図を作ったりする予定で、地元の店を訪れる観光客を増やして、町の活性化につなげたい」と話している。(森直由)