児童福祉施設で暮らす子ども間の性被害・性加害について、厚生労働省が実態調査する方針を決めた。都道府県が件数などをつかんでいても、国に報告したり公表したりする仕組みがないためだ。三重県では2008~16年度の9年間に111件あったことがわかり、実態の一端が明るみに出た。児童養護関係者は対策を求めている。
「誰にも話せなかった」 施設内性暴力、声あげられず
三重県のケースは、県が市民団体「みえ施設内暴力と性暴力をなくす会」(同県名張市)に開示したデータなどで明らかになった。
児童養護施設や児童自立支援施設などを合わせて児童福祉施設と呼ぶ。三重県によると、県内の児童福祉施設では、虐待などで親と暮らせない600人超の子どもが生活する。08~16年度の性被害に関わっていたのは被害者、加害者を合わせて計274人。平均すると年間に約12件、約30人が関わっていた。
12年度までの5年間の計51件については被害の概要も判明。関わったのは2~19歳の144人(男88人、女56人)で、キス、下半身を触る、性器をなめるなどのほか性交もあった。男子同士など同性間の行為や、3人以上によるものも少なくない。県子育て支援課の担当者は「少ないとは言えないが、内容に応じて行政も入って個別に対応している」と話す。
児童福祉法では、職員らによる子どもへの虐待は都道府県への報告が義務づけられ、公表されている。しかし、子ども間の暴力は報告義務がない。都道府県では性暴力を含む子ども間の暴力があれば施設側に報告を求めているが、「施設や子どもへの偏見や誤解を生みかねない」(東京都)などとして公表していない。
朝日新聞が都に情報開示請求をしたところ、都が報告を受けた子ども間の性的事故は、15年度63件、16年度74件、17年度は4~12月に60件あったことが判明。都の児童養護施設は63あり、約3千人が暮らす。都の育成支援課は「報告の基準は決まっていないので、あくまでも報告があったものの件数。かかわった人数や内容、年齢は開示できない」と説明する。
厚労省家庭福祉課の河尻恵・社会的養護専門官は「これまで積極的に触れてこなかったが、三重のケースなどが明らかになり、性暴力を含む子ども間の暴力についての実態把握の必要性が出てきた」と話す。直接施設を対象に調べるのか、都道府県を通じて実施するのかなど、調査方法を検討中という。(編集委員・大久保真紀)
臨床心理士として施設の子どもたちとかかわってきた西澤哲・山梨県立大学教授(臨床福祉)の話
背景には子どもの無力感や支配性がある。大人が子どもに寄り添い、丁寧にかかわっていくことしか対策はない。そのためには職員の質と量の向上と施設の小規模化が不可欠だ。加害者は被害体験のある場合がほとんどで、施設内で連鎖することも多い。加害者にも被害者としての面をケアしていく必要がある。難しい問題で、関係者はどう表に出せばいいかわからなかった。こうして一部が明らかになった以上、実態調査が必要だ。