14日、米軍によるシリアへの攻撃で首都ダマスカスの空に飛び交うミサイルの光。大きな爆発音が響いた=AP
トランプ米政権は13日、シリアでアサド政権が化学兵器を使用したと断定し、報復として米軍が英仏との共同作戦で化学兵器関連施設3拠点をミサイル攻撃し、破壊したと発表した。米国防総省は14日に会見を開き「全てのミサイルが目標に到達した」と強調。一方、アサド政権を支援するロシア軍に損害が出ないよう攻撃対象は慎重に選ばれたが、ロシアは強く反発しており、米ロの緊張が高まるのは避けられない。
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特集:シリア情勢
化学兵器使用疑惑に絡むトランプ政権によるシリアへの攻撃は昨年4月に続き2回目。トランプ大統領は14日朝、ツイッターに「これ以上の結果はない。作戦完遂!」とつづった。
国防総省のマッケンジー統合参謀本部事務局長は同日の会見で「今回の作戦を三つの言葉で表現すると、正確、圧倒的、効果的だ」と強調。その上で「シリアが化学兵器を開発、配備、再び使う能力を大きく損なった」と成果を強調した。
国防総省によると、発射されたミサイルは昨年の攻撃の約2倍の105発(米85発、英仏20発)。地中海東部などに展開する米艦船や原子力潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」を発射。B1戦略爆撃機からも空中発射ミサイルで攻撃した。英仏の戦闘機や艦船もミサイル攻撃に加わった。
攻撃の標的は、①首都ダマスカス近郊の化学・生物兵器に関する研究や開発、製造、試験を担う施設(76発着弾)②主にサリンが保管されているとみられる中部ホムス西郊の化学兵器貯蔵施設(22発着弾)③ホムスにある化学兵器の装備貯蔵施設と、重要な戦略指揮所が含まれた施設(7発着弾)、の3拠点という。
同省は、市民の被害は確認されていないと主張。アサド政権軍が40発以上の地対空ミサイルを発射したが、米側への影響はなかった。ロシアの防空システムは稼働しなかったという。マッケンジー氏は「シリアの防衛の試みは無力で、やみくもな発射はむしろ自国民への危険を増大させた」と指摘した。
トランプ政権が今回の軍事行動に踏み切ったのは、今月7日、シリアの首都ダマスカス近郊東グータ地区の町ドゥーマで、化学兵器を使用したとみられる攻撃があったためだ。
今回の攻撃は、国連安全保障理事会や米議会の承認は得ていないが、トランプ氏は攻撃について「化学兵器の使用抑止を強く確立するためで、米国の極めて重要な安全保障上の国益のためでもある」と説明した。
13日に同省で記者会見した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は「シリアが持つ化学・生物兵器に関する研究や開発、利用する能力を低下させる。長年にわたる研究開発データや装備品などを失うだろう」と語った。
トランプ氏は、アサド政権の後ろ盾であるロシアとイランを名指しし、「罪なき人々の大量殺害に関係したいのか」と批判。「ならず者国家や人殺しの独裁者を支援することで成功する国はない」と断じた。
米ロは2013年にシリアの化学兵器廃棄で合意した。トランプ氏は「今日の行動はロシアが約束を守れなかったことの直接的な結果だ」と批判した。その上で「ロシアは暗い道を進み続けるのか、平和と安定の力になる文明国家の仲間入りをするのか決めなければならない」とした。
ただ、攻撃の根拠である化学兵器使用の確たる証拠は示されていない。前日まで証拠があるか断定を避けてきたマティス国防長官は会見で「アサド政権が化学兵器を使用したことを確信している」と言い切った。だが、「塩素ガスが使われたと確信している。サリンの可能性も排除しない」としつつも、詳細は判明していないことを認めた。
これに対し、アサド大統領は14日、イランのロハニ大統領との電話会談で「(米英仏の)攻撃はシリアのテロリストとの戦いへの決意をより強いものにするだけだ」と批判した。シリア国営通信が報じた。
また、ロシアのプーチン大統領は声明を出し、「今回の緊張激化は、国際関係のすべてのシステムに破壊的な影響を及ぼしている。歴史がすべてを判断するが、すでに米国にはユーゴスラビア、イラク、リビアと血塗られた懲罰に対する重い責任が課されている」と述べた。
米政権は昨年4月にもアサド政権軍がシリア北西部で化学兵器を使用したとして、シリア中部の政権軍基地に巡航ミサイルを発射し、戦闘機約20機を破壊した。
国連安保理は、14日午前11時(日本時間15日午前0時)に緊急会合を開催し、米英仏とロシアがシリア攻撃をめぐって応酬した。(ワシントン=杉山正、土佐茂生)