麻耶雄嵩さん=2018年4月17日午後、大阪市西区、田中圭祐撮影
奇形的な作風で熱烈なファンを持つミステリー作家、麻耶雄嵩(まやゆたか)さんの新刊「友達以上探偵未満」(KADOKAWA)は、故郷の三重県伊賀市を舞台にした連作だ。地元ゆかりの忍者や松尾芭蕉を絡めた物語は一見、ご当地小説のよう。だが、問題篇(へん)と解決篇にわかれた犯人当ては、一筋縄ではいかない。
伊賀ももと上野あおは、探偵志望の女子高生。中学時代から2人で学内外の事件を解決し、桃青(とうせい)コンビ(桃青は芭蕉の俳号)として活躍していた。ある日、所属する放送部の活動で、観光イベント「伊賀の里ミステリーツアー」を取材することに。ところが、クイズラリー形式のイベントのさなか、参加者の一人が他殺体で発見される。それも、芭蕉の俳句に見立てられたとも取れる格好で――。
開巻を飾る「伊賀の里殺人事件」は、2014年にNHK・BSプレミアムで放送されたドラマ仕立ての推理番組「謎解きLIVE」で手がけた原案がもと。ドラマとはキャラクターを変え、主役の2人が名探偵の座を争う推理合戦の趣向も取り入れた。
真実が一つしかない探偵小説では、最後に勝者となる探偵役は1人だけ。複数の探偵が登場する作品もあるが、本来の探偵役以外は誤った推理を披露する嚙(か)ませ犬になりがちだ。でも、本作では「2人で探偵をさせたかった。それも従来のホームズ、ワトソンっていう一方的な依存関係じゃなくて、どっちがいなくても成り立たないようにしたかった」と話す。
逆に言えば、1人では探偵として何かが足りないということ。探偵の役割をいかに分割するか、悩みながらの執筆だったという。「力の強さや足の速さと違って、頭の良さは何が苦手で何が得意かという長所短所を作りにくい」。さらに、「一つの事件で1人だけが目立つのではなく、両方とも活躍できるようにするにはどうしたらいいか」も考えた。
本格ミステリーとしての謎解きの精密さはもちろん、こうしたミステリー小説の形式を揺さぶるような問いが仕掛けられているところが、麻耶作品の真骨頂だ。
綾辻行人や法月綸太郎(のりづきりんたろう)らが輩出し、1980年代後半に「新本格」ブームの震源地になった京都大学推理小説研究会の出身。「初めて書いたのが犯人当てで、ミステリーマニアたちをどうやってうまくだますかが面白かった。その延長で、何とかそういう人たちの裏をかいてやろう、驚かしてやろうとして書いているところがある」と言う。
その結果、数々の問題作を生んできた。日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞の2冠となった「隻眼の少女」(10年)では、名探偵の誕生をテーマにミステリー小説の根幹を揺るがした。「神様ゲーム」(05年)と続編「さよなら神様」(14年)には、序盤で犯人の名前だけを告げる自称・神様の小学生が登場。昨年、フジテレビの月9枠でドラマ化された「貴族探偵」(10年)では、推理から犯人の告発までをすべて使用人に任せる探偵を描いた。
その前衛性は、「推理のために世界が歪(ゆが)む」と評されるほど。偏執的なまでに論理を突き詰めることで、現実とは違う、探偵小説のための世界が立ち上がってくる。「僕自身の性分なんです。やるならとことん、少々破綻(はたん)しても突っ走ろうっていうタイプなんで。それが作品のとがったところになるのかな」
たとえば、手間のかかる密室殺人は現実的ではないともいわれる。だが、「本格ミステリーは密室があったほうが面白い。だったら徹底的に密室が成り立つような世界にしてしまえばいい」。そして、こう続けた。「普通の社会のなかに密室があるから浮くのであって、密室が浮かないような社会というか、思考性になれば作品中では浮かなくなる。まあ、それだと作品が浮いちゃうんですけどね」
本体1500円。(山崎聡)