山田洋次監督
喜劇映画の王道をゆく山田洋次監督の「家族はつらいよ」シリーズは、毎回、他人事と思えない家族の問題を真正面からとりあげるホームドラマだ。25日から公開される第3弾「妻よ薔薇(ばら)のように 家族はつらいよⅢ」のテーマは「主婦への賛歌」。山田監督は「家庭を切り盛りする主婦の苦労は軽んじられてます」と、自省を交えながら作品について語った。
舞台は、周造(橋爪功)と富子(吉行和子)の老夫婦が、長男と嫁、その子どもたちとの3世代で暮らす平田家。長男の幸之助(西村まさ彦)が、家に居ながら泥棒に入られた妻の史枝(夏川結衣)を嫌みたらたらと、なじったことから騒動が持ち上がる。ふだんから気遣いのない夫への不満を爆発させ、史枝が家出してしまうと、家事万端が滞った平田家は大パニックに……。
シリーズで、平田家のもめ事を大なり小なり描いてきた山田監督は、親子そろって口の悪い舅(しゅうと)と夫につかえる史枝の立場に、作者でありながら同情してきたという。「日本の働き盛りの男たちは、いまだに主婦の苦労を心に染みるほどは理解していませんね。毎日毎日、朝早く起きて子どもの弁当をつくるだけでも大変なのに。僕自身、家のことは万事任せっきりだったから、妻の前ではいつも、後ろめたい被告のような気分になってましたよ。この国は依然として男尊女卑。なぜ女性の地位が圧倒的に低いままなのか、もうちょっと真剣に考えないとね」
平田家には、それぞれ結婚している長女(中嶋朋子)と次男(妻夫木聡)もいるので、4組の夫婦がからみ合う。山田監督は、気心の知れた専属のオーケストラを擁する指揮者のような心境で物語の構想を練るという。「長女は税理士なので、他人の骨肉の争いにも首を突っこんでいるし、今は子どもがいなくて共働きの次男も、やがて保育所探しで苦労するかも知れません。老夫婦にしても、いつ要介護になるか、わからない。アイデアは尽きませんよ」
撮影現場では、いまだにデジタルシネマカメラを使わず、フィルムで撮る。「本番は1回限り。『よーい、ハイッ』の掛け声でカメラのモーターが回りだすと一気に緊張が張りつめる。いくらでも撮り直せるデジタルだと、そういった高揚感がなくて、とまどってしまうんです」
人情喜劇の巨匠も御年86歳。しかし、1歳年上で同じく現役監督のクリント・イーストウッド(87)と張り合う気力は衰えていない。「年をとってみると、若いころよりも発想が柔軟になったし、老人にしか思いつけないこともある。映画をつくるのが、とても楽になりましたね」(保科龍朗)