長男倖太郎君やほかの行方不明者の捜索を続ける上野敬幸さん(福島県南相馬市、笠井さん提供)
シリアで銃撃され、亡くなったジャーナリストの遺志を継ぐ「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」に、東日本大震災後の福島を描いたドキュメンタリー映画「Life 生きてゆく」が選ばれた。家族を奪った津波、そして原発事故。失意の底から立ち上がろうとする被災者とともに、「長い時間をかけて紡ぎ出した作品」と評価された。
映画の主人公は福島県南相馬市の農家、上野敬幸(たかゆき)さん(45)。両親と幼い2人の子どもが津波にのまれた。捜索を始めた矢先に約22キロ先の東京電力福島第一原発が爆発。警察も自衛隊も来ない中で避難を拒み、泥の中から見つけた長女永吏可(えりか)さん(当時8)の遺体を自ら安置所に運んだ。
行方不明の長男倖太郎(こうたろう)君(当時3)やほかの行方不明者をボランティアの仲間と一緒に捜し続ける上野さん。そんな日々に伴走し、約5年半の記録を115分の映画として昨年1月に完成させ、同5月に発表したのが、テレビ局の元記者で浜松市在住の映像ディレクター笠井千晶さん(43)だ。
震災から半年後、取材で福島を訪れ、上野さんの体験や、原発事故で家族の捜索すらできなかった人が何人もいた事実を知った。「情けなかった。原発から何キロ以内に入るとか入らないとか言っていた自分たちは何だったのか、と」。取材の時間をつくるため、2015年にテレビ局を辞め、被災地に通い続けた。
一方、アフガニスタン、イラク…