ゼネラルエディター兼東京編集局長 中村史郎
森友学園問題では「三つの責任」が問われている。
国有地売却の大幅値引きや決裁文書の改ざんが違法かどうかという刑事責任、虚偽の文書と答弁で国会を欺き続けた財務省の行政責任、そして首相にまつわる疑念にふたをしたまま幕引きをはかる安倍政権の政治責任である。
刑事責任について、大阪地検は財務省関係者を不起訴にした。検察がどこまで調べを尽くしたのか、全員不起訴が妥当か否かは、検察審査会で吟味されることになるだろう。
財務省は4日、調査報告と関係者の処分を発表した。なお多くの疑問が残る内容だが、うそにうそを重ねた事実を公に認めた。
まったく手つかずなのが政権の政治責任だ。
不透明な値引きの背景に安倍晋三首相の妻昭恵氏の関与が疑われた。昭恵氏は学園側に利用されたのかもしれないが、疑われるだけの理由があった。しかし、首相は「妻は関与していない」と突っぱね、慌てた官僚たちがつじつま合わせの国会答弁を始め、文書の改ざんと廃棄に手を染めた。
ことの発端で首相に近い人物の関与が疑われ、それをむきになって否定する首相の対応が事態を拡大させる構図は、加計学園問題にも共通する。しかし首相の認識は全く逆のようだ。先週の国会で「私や妻にこの問題を持っていこうと考えるから(問題の)本質からそれていく」と語った。
本紙が森友問題を報じてから1年4カ月。「いつまでモリカケばかり騒いでいるのか」という声を聞くが、長引かせているのは逃げの姿勢に終始する政権の側ではないか。5月の本社世論調査では、森友・加計疑惑の解明に「安倍政権が適切に対応していない」と感じる人が75%。政治不信は澱(おり)のように積もる。
4日、記者団から政治責任を問われた首相は「対策を徹底して講じていくこと」と応じた。その前に取り組むべき政治責任――疑惑の説明、閣僚や官僚の任命、国政混乱の結果に対する責任をしっかり果たさない限り、この政権が信頼を取り戻すことはできない。