JFEスチールの柿木厚司社長
米トランプ政権が保護主義的な通商政策を強めている。鉄鋼・アルミ製品への高関税に加え、自動車や自動車部品でも新たな関税を課す検討に入った。欧州連合(EU)などは対抗措置を取る構えを見せている。世界に広がる保護主義の影響は。鉄鋼メーカーでつくる日本鉄鋼連盟会長に就任したJFEスチールの柿木厚司社長(65)に聞いた。
――米国が鉄鋼・アルミ製品への高関税措置の対象国を広げています。
「EUやトルコなどが対抗措置を検討し始めた。保護主義的な動きが加速することは、我々鉄鋼業界にとっては一番怖いことだ」
「日本の粗鋼生産量は年間約1億トンで、内需は5千万~6千万トンほど。これ以外は東南アジアなどに輸出している。保護主義が広がって、様々な国が『もう輸入しないぞ』となると、その分がどこかの市場に流れ込み、混乱するだろう。ただ、どの国がどう輸出してどう混乱するのかは、変数が多すぎてなかなか読めない。鉄鋼業界にとって非常に難しい問題だ」
――世界の粗鋼生産量の半分を占め、鉄鋼市況に大きな影響を与えてきた中国に対しても、米国は貿易赤字の削減を求めています。
「経済成長を続ける中国は、内需が非常に大きく、国内産の鉄鋼がどんどん使われている。政府が供給過剰の解消に努めたこともあって、海外には鋼材がそれほど出ていない。しかし、対米関係をきっかけに中国経済が減速し、国内で消費していた鉄鋼の行き場がなくなれば、輸出量は増える。短期的に見ると非常に怖い」
「鉄鋼を多く使う米国の建設機械大手キャタピラーは、株価下落が報じられた。高関税のつけは結局、米国民が払うことになるのではないか。2002年にブッシュ政権も輸入制限をしたことがあるが、高関税は米国の製造業にとって良いことではないはずだ」
――米国は自動車への関税も検討しており、乗用車では現行の2・5%から最大25%に上げるともいわれています。乗用車1台あたりの鉄鋼使用量は700~800キロ。鉄連会長就任会見では、鉄・アルミ製品への関税よりも影響が大きいとの見方を示されました。
「日本は自動車生産の2割にあたる約170万台を米国に輸出している。これに25%の関税がかかり、EUが対抗したりすれば、世界の自由貿易市場が崩れてしまう危険性がある。自動車への関税は非常に影響が大きく、より怖い」(聞き手・野口陽)
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かきぎ・こうじ 1953年生まれ、茨城県出身。東大卒。77年にJFEスチールの前身・川崎製鉄に入社。人事担当など主に管理部門を歩み、2012年に副社長、15年4月から社長。今年5月、日本鉄鋼連盟の会長に2度目の就任をした。JFEホールディングスの代表取締役も務める。