アイスランドと引き分け、試合後、両ひざに手を当て落胆するアルゼンチンのメッシ=ロイター
(16日、アルゼンチン1―1アイスランド サッカー・ワールドカップ)
後半の時間表示は50分に迫っていた。最後のプレーになったのは、アルゼンチンのMFメッシのFKだ。
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ゴール前ほぼ正面。ボールに近寄る者はほかにいない。背番号10が放ったキックは、アイスランドが築き上げた人の壁にまたも跳ね返された。そして、試合終了を告げる笛が鳴った。
ため込んだ不満をはき出すように、拾い上げたボールを高くけり上げた。左腕に巻かれたキャプテンマークを外し、ひざに手をついた。まるで、重たい荷を下ろすかのように。
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アルゼンチンのボール支配率は73%。スコアは1―1。後半19分、メッシは勝ち越し点となるPKを失敗していた。彼の疲れた表情は、90分を通して自身がゴールを奪えなかった徒労感なのか、W杯のタイトルには遠いという絶望感なのか。
この3月、アルゼンチン代表の欧州遠征先でサンパオリ監督が放った言葉が物議を醸した。
「チームは私のものではなく、メッシのものだ」
メッシへの信頼表現、それとも責任転嫁……。「そもそもメッシに依存していることに変わりはない」。冷めた声も国内で上がったという。
周囲はせっせとボールを奪い返し、メッシにパスを送り続ける。ブラジル大会で準優勝したサベラ監督も「チームにとって一番重要なのは、彼に居心地良くプレーさせることだ」といっていた。
今大会のチームも、優勝できなかった4年前と同じだ。ゴールが生まれるか、勝てるのかですらメッシ次第ということも。
4月にブエノスアイレスを訪ねた。昨秋のW杯南米予選の最終戦で、アルゼンチンはメッシの3得点で予選敗退の危機を脱していた。地元テレビのソティーレ記者は「メッシに引っ張られてW杯に連れていってもらえた。国民は今度は彼のおかげで優勝できると期待しているが、その考えはW杯初戦までだろう」。予言は現実になりつつある。
現地で出版されたばかりのサンパオリ監督の著書にはこんなくだりがあった。
「周囲はメッシの頭にW杯という銃を突きつけている。優勝できなければ、彼を1発で殺してしまう。彼が自分の才能を楽しめない状況はばかげている」
16日のアイスランド戦でやみくもにゴールに突っ込み続ける姿は痛々しくも映った。どんな天才であっても、サッカーはひとりではできない。
メッシよ、W杯でのプレーを楽しめているか。(潮智史)