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ガンジーもタージマハルも… インドで進む歴史書き換え

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インド独立の歴史についての授業風景=ニューデリー、奈良部健撮影


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インドのモディ首相が就任して4年。この間、自国の歴史の書き換えが進んでいる。ヒンドゥー教徒以外はインド人ではないとの考えに傾き、神話と史実を混同する。イスラム教徒など少数者に対する排外意識を強めかねない。(ニューデリー=奈良部健)


インド西部ラジャスタン州で一昨年、公立校の社会科教科書から初代首相ネールの記述が削除された。建国の父、ガンジーの暗殺も触れられていない。


「ガンジーとネールは最も時間をかけて教わったものです。子どもたちにしっかり学んでほしいのですが」と同州アジュメールの主婦ミナ・カプールさん(45)は話す。


ガンジーとネールは、モディ氏率いる与党インド人民党のライバル政党、国民会議派のメンバーだった。現在の会議派総裁は、ネールのひ孫ラフル・ガンジー氏が務める。


人民党の支持母体でモディ氏の出身団体でもある「民族義勇団(RSS)」は、ヒンドゥー教の伝統による社会の統合を目指す。モディ氏自身は表立ってガンジーを批判しないものの、RSSは「ガンジーもネールもイスラム教徒に弱腰でヒンドゥー教徒を苦しめた」と非難する。


教科書書き換え支持7割


一方、教科書に書き加えられたのはRSSの思想に影響を与えたサーバルカルだ。「ヒンドゥー教国家」を唱え、ガンジー暗殺への関与が疑われた人物だ。


連邦制のインドでは、教科書の内容は州政府が決める。改訂はラジャスタン州のほか、人民党が政権を握る各州に広がる。「先進州」は、モディ氏が2014年に連邦首相になるまで州首相を務めたグジャラート州だ。イスラム教徒やキリスト教徒を「外来者」と位置づけたり、RSSの愛唱歌を加えたりしてきた。


14年に国内紙が実施した世論調査では、教科書書き換えへの支持が69%に上った。


「歴史と神話の混同」と批判


モディ氏はこう述べたことがある。「ガネーシャは、形成外科が古代インドで知られていた証拠だ」


ヒンドゥー教の神々が登場する古典には、父シバ神に首を切られ、象の頭に付け替えられたガネーシャ神の話がある。モディ氏はこれを真に受けた。歴史学会からは「歴史と神話の混同だ」と批判された。


それでもモディ政権は16年、古代史を再検討する委員会を設置。マヘシュ・シャルマ文化相は「神々の話は神話ではなく史実。古典の内容と考古学の史資料との差を埋める必要がある」と話す。


世界遺産にも歴史書き換えの波は押し寄せる。


ウッタルプラデシュ州は昨年つくった観光ガイドブックにタージマハルを載せなかった。17世紀、イスラム系ムガール帝国の皇帝シャー・ジャハーンが先立った妻のために建てた墓だ。


ヒンドゥー僧侶出身で人民党のヨギ州首相の影響が取りざたされる。ヨギ氏は「(侵略者が建てた)タージマハルはインド文化を代表するものではない」と発言したことがある。


イスラム教徒に広がる不安


ニューデリーから北に車で2時間ほどのメーラトには、ガンジーを暗殺して処刑された元RSSメンバー、ゴドセをまつった場所がある。RSSと別のヒンドゥー至上主義団体「ヒンドゥー大会議」の支部が15年にゴドセの胸像をつくり、ガンジー暗殺日やゴドセの命日に甘菓子を配るなど活動してきた。


メーラトのガソリンスタンドで働くゴーラブ・ラトッドさん(28)も、3年ほど前から見直すようになった。「ゴドセは単なる暗殺者ではなく愛国者だった」


ヒンドゥー至上主義の浸透にイスラム教徒は不安を隠せない。政府系のマイノリティー委員会のザフルル・カーン委員長は「モディ政権はヒンドゥー教徒こそ『本来のインド人』で、イスラム教徒や少数派を『よそ者』と位置づけている」と指摘する。


国民約13億人のうちヒンドゥー教徒が約80%を占める。これに対し15%ほどのイスラム教徒は有力な全国政党を持たず、国民会議派を支持する傾向が強い。モディ氏が首相に躍り出た14年の総選挙で人民党は第2党の会議派に大差をつけ圧勝した。


次の総選挙は来年にも行われる。「政権は多数票獲得のため、我々への憎悪をさらにかき立てるだろう」とカーン氏は心配する。


歴史家にも危機感


デリー大学のサンジャイ・スリバスタバ教授(社会学)は「モディ氏は古代インドの優越性を強調してヒンドゥー教徒の誇りを刺激する。これを世界でのインドの存在感の向上や経済成長などが後押ししている」とみる。


インド憲法はすべての宗教を平等に扱う「世俗国家」を掲げる。しかし人民党にはこれを削除すべきだと公言する閣僚がいる。教科書の書き換えは、その地ならしとも指摘される。


危機感は歴史家にも広がる。歴史教科書の執筆に携わってきたアルジュン・デブ氏(82)は、政府の歴史書編纂(へんさん)事業の責任者だった。第1巻は出版したが、モディ政権発足後の15年に原稿を仕上げた第2巻は出版を差し止められている。独立運動でのヒンドゥー至上主義者への言及が少ないのが理由らしい。


デブ氏は警告する。「今の動きは、ゲルマン民族の優秀さを歴史から強調し、ユダヤ人を迫害したナチスと重なってみえる」



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