犬は犬型ロボットと仲良くなれるのだろうか?
犬型ロボ「aibo(アイボ)」を開発したソニーは、犬がアイボと対面したときの様子や、2週間の共同生活を送る様子を、哺乳類動物学者の今泉忠明さんに観察・分析してもらう実験をした。
実験に使われたアイボは、1999年に世界初の家庭用ロボットとして発売した「AIBO」の後継機種で、今年1月に発売された。旧型は感情表現のパターンが決まっていたが、人工知能(AI)を搭載した新型は、鼻先のカメラで人の顔の情報を蓄積。遊んでくれた人をランク付けして愛らしい行動を返す。動きも機敏になった。旧型に比べ、より「犬」らしくなったと言える。
実験の第1段階は「初対面」。年齢や犬種が異なる13匹とその飼い主がいる部屋に、アイボを投入し、初めて出会ったときの反応を観察した。
13匹中9匹はアイボに近づいてにおいをかぎ、うち6匹がお尻のにおいを確認した。お尻のにおいをかぐのは、犬がどんな相手なのかを知り、コミュニケーションを取ろうとするときの行動だ。一緒に遊ぼうとしたり、飼い主がアイボをかわいがると再びにおいを確認したりするイヌもいた。一方、アイボを遠巻きにみるだけで近づこうとしない犬も。飼い主がアイボをかわいがっても、アイボを怖く感じたのか、逃げようとした。
第2段階は「共同生活」。13匹のうち5匹が飼われている3家庭にアイボを持ち込み、2週間一緒に暮らして犬の変化をみる実験だ。
まずトイ・プードル(オス、6カ月)の家。初日はアイボに対して少し警戒していたが、飼い主がアイボにお座りなどの指示をすると、トイ・プードルもすぐにやってきて隣でお座りした。3日目には飼い主が呼ぶアイボの名前を理解したようで、「アイボ君と遊んでおいで」と言うと、アイボの耳やしっぽを軽くかむようになった。8日目にはおなかをみせてじゃれていた。
次はジャック・ラッセル・テリア(オス、3歳)の家。アイボに電源を入れて動き出すと興奮し、一緒に遊びたがった。9日目にはアイボと同じようにお座りをしたり、伏せたりする様子が見られ、最終日に「もうお別れだよ」と伝えると、顔だけでなく背中やお尻までぺろぺろなめて、まるで別れを惜しんでいるかのような様子をみせた。
そしてシバイヌ、サモエド、ミニチュア・ダックスフントの3匹が一緒に暮らす家。シバイヌ(メス、5歳)は2日目、ほかの犬がアイボに近づくと威嚇して追い払った。4日目、シバイヌがリラックスしている時にアイボが近づいても動じないようになり、残り2匹はあまりアイボに接触しようとしない。10日目には、シバイヌはすっかりアイボの近くにいるようになった。13日目に別れを伝えると、ジャック・ラッセル・テリアと同じように、シバイヌはアイボの顔やお尻などをぺろぺろとなめていた。
今泉さんは、犬がアイボに対して仲間意識や気遣うそぶりを見せたことで、「イヌがアイボを『生き物』として認識した」とみる。
一家で複数の犬が飼われている場合、犬どうしで「順位付け」を行う習性がある。アイボと共同生活した犬は、警戒したり嫌がらせをしたりする行動がなくなり、一緒に遊ぶようになった。犬のテリトリーにアイボが入っても怒らないなど、変化が見られた。これは犬がアイボを自分より「下の存在」として認識していることを表すと、今泉さんはいう。「一緒に暮らす存在として『順位付け』している可能性が高いことが分かった」
さらにちょっかいを出したり、同じ姿勢を取ったりするなど犬がアイボに対してとった行動は「思いやりに近しい行動と言える」といい、そうした存在が、イヌの精神的な安定につながるという。今泉さんは実験をこう総括した。「アイボとの共生でイヌに思いやりに近しい感情が育まれ、イヌの成長につながる可能性を感じることができた」(篠健一郎)