鉄道自殺を防ぐため、JR西日本が積極的な「声かけ」に取り組んでいる。ホーム柵などのハード面の整備を進めた結果、この10年で人身事故は半減したものの、自殺の件数はほぼ横ばい。1件でも減らせるように、人と人の気持ちのふれあいに期待している。(鈴木洋和)
JR西日本の駅員、辻恵司さん(58)は昨年5月、運行管理を担う大阪総合指令所から通報を受けた。「踏切を通った列車の車掌から、『(自殺するかもしれない)女性が立っている』と連絡があった。見に行ってくれないか」
勤務していた大阪府内の駅から踏切までは300メートルほど。部下と2人で小走りに向かうと、遮断機のそばに年配の女性がいた。遮断棒は上がっているが、渡る様子はない。
制服姿の辻さんらに気づいて立ち去ろうとした女性に、「踏切の前に立たれていましたね」と話しかけると、「孫が(踏切の先にある)公園で遊んでいるので見に行ってきました」。辻さんは「踏切の近くで立ってはるので、危ないと思ってきました。気をつけてくださいね」と促した。
6日後、電車に乗っていた辻さんは同じ踏切で同じ女性を見かけた。すぐに携帯電話で同僚の東(ひがし)耕太郎さん(41)に連絡。東さんは駅から急いで踏切へ向かったが、もう女性の姿はなかった。駆けつける途中で、その女性らしき人とすれ違ったようだった。
東さんが踏切のそばに住む人に話を聞いたところ、「最近、よく見るんです。遮断棒が上がっても渡らず、線路をのぞきこんでいる。どうしたらいいの?」と戸惑っていた。見かけたら警察と駅に連絡してもらうように伝えた。
それから約1年3カ月がたつが、その女性が現れたという通報はない。
JR西日本は2013年度から、人と列車が接触する事故を防ぐため、酔客や体調が悪そうな人に進んで声をかけるよう、駅員や乗務員に徹底している。その延長で、自殺を思わせる人を見かけた際も対応するようになった。踏切に駆けつけたケースは珍しいものではないという。
また、京阪神の主要駅に配置する警備会社の警備員にも、①ずっとホームにいて何本も電車をやり過ごす②冬なのに半袖を着ている③目がうつろで遠くを見ている、といった自殺するかもしれない人の特徴を研修で伝えて、積極的に声をかけてもらっている。
■ハード面でも工夫…