秋田県南部の東成瀬村(ひがしなるせむら)。人口2600人に満たない山深い村で年に1度、「仙人修行」が行われる。「自分を見つめ直したい」「都会の喧噪(けんそう)から離れたい」。様々な理由で県内外から来る修行者を、今夏も厳しく、でも温かく迎え入れた。34年続く行事は、村のファンを着実に増やしている。
座禅でめざす「無の境地」
修行は2泊3日の日程。村内にある永伝寺(同村田子内)、龍泉寺(同村岩井川)を主会場に、滝行や断食、写経などを行う。やり抜けば「仙人認定証」が授与され、これまで延べ760人超が認定された。今年は8月3~5日にあり、参加費1万円で定員25人。記者(25)も申し込んで参加した。
修行は10分の座禅から始まる。仕事のこと、食べ物のこと……。「座禅は『無』になるもの」と思い込んでいたが、次から次へと考えてしまい、ずいぶん長く感じた。指導してくれた永伝寺の武藤直哉住職(68)にそう話すと、「厳しい修行をしても『無』にはなかなかたどり着かない。まずは一番の悩みを考えるところから」。3日間で座禅は4回。時間は10分ずつ延びるが、不思議と体感時間は短くなった。
その後は滝行用のわらじ作り。地元の佐々木友信さん(84)に教えてもらった。慣れない体勢に何度も足の裏がつったが、佐々木さんに「うめえな」と褒められると顔がほころぶ。
初日の昼から断食が始まる。夜、空腹で目覚めるほどつらいが、翌朝のおかゆは格別。鍋を開けた匂い、配膳の音。五感で味わい、日々の食事に感謝した。
滝行は2日目。高さ約17メートルの不動滝(同村田子内)に、大声で「南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)」を唱えて打たれる。男性2分、女性1分。冷たい水にひるんだが、周囲の声援に背を押された。胸まで水につかって、水流に負けぬよう腹に力を入れて踏ん張る。目を開けるのもやっと。「ゴォォ」という水音と自分の叫び声しか聞こえない。体は冷え切ったが、やり遂げると思わず笑顔になった。
達成感を積み重ねる修行は心地良かった。SNSなどを手放し、自分と向き合う時間も新鮮だった。煩悩は尽きないが、素直な自分になれた気がする。
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