米国のポンペオ国務長官は5日、冷え込んでいるパキスタンとの関係を立て直すために同国を訪問した。先月就任したイムラン・カーン首相と初めて会談。テロ対策に本腰を入れるよう迫った。しかし、カーン首相は米批判を続けてきた強硬論者で、関係修復の道は険しい。
ポンペオ国務長官は首都イスラマバードで5日午後、米軍のダンフォード統合参謀本部議長とともに、パキスタンのカーン首相やクレシ外相、パキスタン軍トップのバジュワ陸軍参謀長と会談した。
米国務省によると、ポンペオ氏はカーン首相との会談で「持続的で断固たるテロ対策をとる必要性」を伝えた。ポンペオ氏は会談後、記者団に「依然道のりは長く、多くの議論が必要」と述べた。一方、クレシ外相は記者会見で「見解の違いを示し合えたのは前進」としつつ、「パキスタン軍のテロ対策の実績は周知の事実だ」と釘を刺した。クレシ外相は来月にも米ワシントンを訪ねる予定という。
両国関係が悪化したきっかけは、アフガニスタン駐留米軍の戦略見直しを公表した昨年8月のトランプ米大統領の演説だった。トランプ氏は「パキスタンはテロリストをかくまっている」と述べ、パキスタン軍がアフガンのテロ対策で米国への協力姿勢を示す半面、アフガンの反政府武装勢力タリバーンを裏で支援してきたと批判した。
歴代の米政権はパキスタン軍への不信を抱きつつ表だった批判を控えることで協力を取り付けてきた。しかし、トランプ氏はこれを踏襲せず、パキスタン軍の裏取引こそが治安混迷の元凶だとして方針を転換。このほど、パキスタンへの3億ドル(約330億円)に上る軍事援助を打ち切った。
米政権、パキスタンへ軍事援助打ち切り テロ対策不十分
そのなかでパキスタンを訪れたポンペオ国務長官は同国に向かう機内で記者団に「(パキスタンに)新たな政府ができた。我々は新たなページをめくり前進し始めることを望む」と、関係改善への意欲を示し、パキスタンへの援助再開にも言及したが、「米国にとって理にかなうようならば提供する」と条件をつけた。
パキスタンは簡単には米国に歩み寄りそうにない。同国の安全保障政策の実権を握る軍は、米国に対し「必要なのは援助ではなく信頼だ」と反発してきた。カーン氏も8月に首相に就任する前から「アフガン戦略の失敗をパキスタンのせいにするな」と軍に同調。軍の後押しもあって政権交代を実現したカーン氏が、軍の意向に反して米国に譲歩するのは難しい。
パキスタン軍の最大の関心は、対立する隣国インドの力をそぐことにある。インドは、パキスタンの西隣アフガンへの影響力を強めている。挟み撃ちを避けたいパキスタン軍にとって、タリバーンとのつながりを保ってアフガン政府を揺さぶる戦略が重要となっている。(イスラマバード=乗京真知、ワシントン=杉山正)