地震による大規模な土砂崩れがあった北海道厚真町。北部の富里地区に住む両親と祖母が土砂崩れに巻き込まれた男性は、町役場の職員として奔走しながら、捜索を見守っていた。
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北海道で震度7、道内の被害状況は
6日午前3時8分、ドンと強い揺れが起こると、町職員の中村真吾さん(42)は「普通じゃないぞ」と感じた。妻と2人の子どもの無事を確認すると、物が散乱し、ぐちゃぐちゃの家から抜け出した。
緊急時は職員らが班に分かれて町内の安全確認をすることになっている。産業経済課に勤める真吾さんは午前4時ごろ、同僚と巡回に出発した。
最初に訪れた朝日地区で、土砂が民家をのみ込んだ光景を目にした。「もしかしたら」。朝日地区の先の富里地区には、両親と祖母が暮らす実家がある。緊急時にはいつも連絡してくる父から、その日は連絡がなかった。
富里地区に着くと、山の中腹にあった実家は、約100メートル先の厚真川の岸まで流され、土砂に埋もれて屋根すら見えなかった。小さい頃によく遊んだ裏山は地盤が固いと言われていて、土砂崩れなど思いも寄らなかった。「覚悟が必要だな」と思った瞬間だった。
父の初雄さん(67)は米農家で、頑固なところもあるが、絶対に人を裏切らないところを尊敬していた。
母の百合子さん(65)は、家族のスナップ写真や真吾さんら息子2人の卒業アルバムを、2階寝室の隣の物置に大切にしまっていた。救助活動が難航するなか、6日午後7時ごろ、アルバムが見つかったことで、2人が寝ていた部屋の場所が判明した。
初雄さんは午後10時半ごろ、百合子さんは午後10時50分ごろに相次いで見つかったという。アルバムを手渡してくれた自衛官に「子ども思いの優しい家庭ですね」と声をかけられた。涙が止まらなかった。
1階で寝ていたという祖母の君子さんは7日午後4時現在、まだ土砂の中から見つかっていない。皿洗いや洗濯など、人が面倒と思うことでも率先して引き受ける優しい人だった。「せめて見つかってくれれば、3人一緒に眠れるから」と真吾さんは話す。
夜を徹した捜索に立ち合い、両親の遺体と対面したのは7日朝。「うそでしょ、夢だよね」とつぶやいた。「いっぺんに2人はないでしょ。早すぎるし、多すぎるよ」。それだけ言うと、声を詰まらせた。(遠藤美波)