北海道胆振(いぶり)地方を震源とする地震は、文化財にも被害をもたらした。国の特別史跡五稜郭(函館市)のほか、アイヌ文化ゆかりの自然景観でも、一部で損壊が確認されている。
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北海道で震度7、道内の被害状況は
北海道平取(びらとり)町はむかわ町の東隣で、震度6弱の揺れに襲われた。アイヌ民族の住民が多い同町二風谷(にぶたに)地区では、国の重要文化的景観の一部で、二風谷ダムのそばにあるクマの姿岩「ウカエロ●(シ)キ」が崩落しているのが見つかった。
一番上が2歳、その次が生まれて間もない子熊、一番下が親熊と伝えられている三つの岩だ。オキク●(ル)ミというカムイ(神)が親子熊を追うというアイヌ民族の言い伝え通り、地震前は3頭が列を作って山の上へ走っているように見えていた。町教育委員会文化財課の森岡健治課長によると、親熊の頭の部分が崩れ落ち、先頭の熊の一部にも損傷が見られるという。
森岡課長は「アイヌ文化にとって打撃ではあるが、自然の造形物なので、こういう災害があったということを、記録にも記憶にもとどめておくことが大事だと思う」と話す。
「ウカエロ●(シ)キ」からほど近い町立二風谷アイヌ文化博物館周辺の伝統的家屋「チセ」の数棟も、屋根のカヤを押さえる横木が落下するなどした。
大規模な土砂崩れが起きた厚真町は、この20年ほどの間、ダム建設に伴う大規模な遺跡発掘調査により、13世紀以降のアイヌ文化期の遺物が数多く出土した地域でもある。同町の軽舞(かるまい)遺跡調査整理事務所の特別室には、本州や北方との交易を物語る和鏡や漆器、ガラス玉、刀剣などの貴重な遺物が保管されていたが、これらはすべて無事だった。アイヌ文化期の約500年前とされる丸木舟も原形通りだった。
一方、函館市にある国の特別史跡五稜郭では、築造から150年以上の石垣の一部が崩落した。堀の内周南西側で、幅6メートル、高さ2メートル、奥行き1メートルにわたって崩れた。同市教育委員会文化財課によると、崩落場所は10月から修復に入る予定だったが、石が元々あった場所を確認する必要があり、修復に時間がかかりそうだという。
道教育委員会文化財・博物館課によると、道内では今回の地震で、北海道大第2農場「釜場」(家畜飼料を煮込み貯蔵する建屋)の煙突の石組みが一部ずれる▽小樽の旧日本郵船小樽支店の天井のしっくいが一部はがれて落下▽江別市の旧北陸銀行江別支店の外側にひび割れ▽沼田町の本願寺駅逓の窓ガラスが一部破損、などの被害が出ている。(芳垣文子、深沢博)