(21日、柔道世界選手権)
世界柔道、阿部兄妹がアベックV 一二三は連覇、詩は初
決勝を戦い終えた阿部一二三が畳を降りると、先に優勝を決めていた詩がガッツポーズする姿が目に入った。男子66キロ級の兄と、女子52キロ級の妹が同じ日に世界の頂点に立った。
「自分が勝って、良い流れでお兄ちゃんにつなげたい」。妹の思いを兄は存分に受け取った。「妹がしっかり勝ちきっていたので、気が引き締まった」。詩は準決勝までの4試合を一本勝ち。決勝でも延長で昨年優勝の志々目から内股で一本勝ち。決勝へ向かう一二三はさらに奮い立った。
互いの柔道を尊敬し、刺激を受けながらそれぞれの柔道を高め合ってきた。兄が妹の話を、妹が兄の話をする時、2人はその思いを隠さない。一二三が「あの若さで結果を残し、努力している。すごい」と言えば、詩は「お兄ちゃんの柔道スタイルを見て学んできた」。今は東京と神戸で離れて暮らし、会話も減った。それでも、話す時の話題は、ほとんどが柔道だ。
自宅のテレビに映った柔道選手が格好良くて、一二三は6歳で柔道を始めた。体は小さく、通い始めた道場では同級生にころんころん投げられた。上級生が怖くて、母が迎えに行くと泣きじゃくることもあった。
一二三が8歳の時、5歳になった詩が道場に通うようになる。詩は技を覚えるセンスが抜群だった。早くから大会で優勝も重ねた。「妹の方が強くなる」。周囲の声に一二三は「その通りだから、当時は何とも思っていなかった」と振り返る。
そんな2人は、同じような成長曲線をたどる。講道館杯を制したのはともに高校2年の時。国際大会の実績も同じように重ねてきた。一二三には「2人で世界一をとれる」と確信した瞬間がある。2016年12月のグランドスラム東京で一二三が優勝、高校1年だった詩が2位に入った時だ。16歳の妹が外国人選手に挑み、次々と勝ち進んだ姿を見て直感した。
それからたった2年で、現実になった。
一二三が目指した「オール一本」の優勝を先に成し遂げた妹が「やってやりました」とおどけた。横で聞いていた兄は「僕は2連覇だから。でも、2人で優勝できて本当によかった」。誇らしげに笑い合った。(波戸健一)