まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」。これを減らそうと、納期のルールを緩和したり、賞味期限の表示を「年月日」から「年月」に切り替えたりする動きが広がり始めた。できるだけ新しいものを求める消費者の思いをふまえつつ、無駄を減らす試みだ。
東京都内のスーパーマーケットに買い物に訪れた女性(72)が棚の奥からソーセージを引っ張り出し、手前の商品と見比べていた。どちらも賞味期限は1カ月ほど先だが、奥の方が3日長い。女性は迷わず奥の方を買い物かごに入れた。
「老人の2人暮らしなので、すぐには食べきれない。できるだけ新しい方を選びます」
賞味期限とは、未開封の状態で保管した場合に、おいしく食べられる目安となる期限のこと。期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではないが、消費者は賞味期限の表示に敏感だ。期限切れの商品が店頭に並ぶのを避けるため、食品メーカーと小売店の間では「3分の1ルール」という慣習が存在している。
たとえば、賞味期間が6カ月の商品だと、卸業者は製造日から数えて賞味期間の「3分の1」にあたる2カ月以内にスーパーなどの小売店に納品しなければならない。納品が2カ月より遅れた商品は店頭に並ばず、卸業者からメーカーに返品されたり廃棄されたりする。大手食品メーカーによると、返品された商品は「販売奨励金」を積んで別の小売店に買い取ってもらったり、ディスカウント店に転売したりするという。
それでも引き取り手がないと、「社員食堂に『ご自由にどうぞ』と山積みになっていることもある」(大手食品メーカー担当者)。3分の1を過ぎただけで、商品価値は大きく下がる。
このルールは、賞味期限切れの商品が店頭に並ぶのを避けるために1990年代に始まったとされる。メーカー、小売り、消費者の3者が賞味期間を「3分の1」ずつ分け合うという考え方から生まれて定着した。欧米にも同様のルールはあるが、メーカーが小売店に納品するまでの期間を米国は「2分の1」、欧州は「3分の2」が一般的で、日本は特に短いという。
流通経済研究所の推計では、卸業者からメーカーに返品される加工食品は2017年度に562億円(出荷額ベース)にのぼった。返品のうち2割はディスカウント店などに回ったが、8割は捨てられていた。同研究所によると、食品メーカーや小売店など35社が参加した実証実験で、菓子と飲料の納品期限を賞味期間の3分の1から「2分の1」に緩和すると、年間約4万トン(約87億円分)の廃棄を減らせたという。石川友博主任研究員は「事業者による食品ロスの1%以上にあたる。対象品目を広げれば、食品ロスの削減に大きな効果がある」と話す。
飲料大手のサントリー食品インターナショナルは、果汁を使っていない清涼飲料水を中心に、賞味期限表示を「年月日」から「年月」に順次切り替えている。今年末までに、全商品の9割まで増やす計画だ。
たとえば、賞味期限が「2019年5月1日」の商品も「2019年5月31日」の商品も、「2019年4月」に表示を統一して前倒しする。賞味期間は最長で約1カ月短くなるが、商品の到着が遅れて賞味期限が一日前後しただけで返品や廃棄することがなくなり、むしろ食品ロスの削減につながるという。「食品ロスや環境負荷の軽減になるうえ、小売店も毎日、賞味期限の順に商品を並べ直す手間が省ける」と広報担当者。同様の取り組みを進めるキリンビバレッジは、年間250トンほど廃棄を減らせると試算している。
物流の効率化にもつながる。賞味期限が1日でも新しい商品を確保しようと東日本と西日本をまたいで商品をやりとりすることもあったが、細かい賞味期限を気にしなくなり、むだな輸送が減るという。二酸化炭素の排出量も年間170トン減ると見込んでいる。
都内のスーパーで買い物をしていた女性(65)は「賞味期限は気になるが、期限が延びるのでなく、今より前倒しになるならいいのでは」と歓迎する。(牛尾梓)