10月8日に名古屋ボストン美術館(名古屋市中区)が閉館する。1999年に米ボストン美術館の姉妹館として開館してから約20年。スタッフは、海外に行かなければなかなか鑑賞できない東西の名品を名古屋で紹介するため尽力してきた。
名古屋駅、変わりゆく街
届いたメール「僕は必ず行くから」
米ボストン美術館は、世界最大級と言われる浮世絵のコレクションをはじめとした日本美術や、ゴッホやゴーギャンなどの西洋美術の巨匠の作品で知られる。昨年3月まで約17年間、名古屋ボストン美術館に勤めた井口(いのくち)智子さん(現名古屋市美術館学芸課長)は、日本初公開の大作「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を展示したゴーギャン展(2009年)が思い出深いという。
「好き嫌いを超越した、考えさせられる、まさに傑作。ぜひじっくり見せたい」と、作品前方に通路、後方に段差つきの台という二つのルートを用意した。ところが実際に作品が到着すると問題が発覚した。
「作品の表面が照明に反射し、よく見えなかった。高さの違うどちらのルートからでもきちんと見える必要があった」。照明を新たに用意する時間はない。考えた末、ケースを制作する際に使うシートが光を反射することを思いつき、それを床に置いた。「レフ板の代わり。これで全体がよく見えるようになった。苦肉の策だった」。“レフ板”には、ほこりがたまる。毎朝そっと拭き取るのが井口さんの仕事だった。
11年の東日本大震災の直後に開いた米国の現代作家による「ジム・ダイン」展も忘れがたい。「予定されていた本人の来日は無理かもしれない」と思ったが、すぐにメールが届いた。
「大丈夫か。僕は必ず行く…