岐阜市の「Y&M 藤掛第一病院」(藤掛陽生院長)で入院中の高齢者が相次いで死亡し、岐阜県警が捜査を始めてから1カ月が過ぎた。厳しい暑さの中、エアコンが故障した院内で亡くなった5人のうち4人に熱中症の所見が出たが、死亡との因果関係を立証できるかなど、難しい捜査を迫られている。
病院では8月20日に本館3、4階のエアコンが故障し、両階にいた入院患者4人が26、27日に相次いで死亡した。24日に3階に入院した男性患者も、冷房が効く階に移った直後の28日に死亡した。県警は業務上過失致死容疑を視野に調べている。
司法解剖の結果、4人に熱中症の所見が認められた。もう1人は熱中症とは無関係の病死とみられている。県警は亡くなった患者のカルテなどを押収しており、死亡した状況や病院の管理体制を慎重に調べている。
捜査関係者からは、病院がエアコン故障後に扇風機を設置するなどの対応を取っていたことから、「死亡の予見可能性を立証するのは非常に難しい」との見方が出ている。また、患者が抱えていた症状もそれぞれ違うことから、「エアコンの故障と死亡との因果関係は簡単には言えない」との声もある。
藤掛院長は問題が発覚した8月28日に「何か問題があったとは考えていません」などと報道陣に語って以降、直接の取材に応じていない。9月5日に代理人弁護士を通じ、「もっとできることはなかったのかを考え、より良い医療を目指して努力を続けます。それこそが亡くなられた患者様に対する誠意でもあると考えております」とのコメントを出した。代理人弁護士は同日に「刑事責任を問われるような問題はなかった」との文書を発表し、その後は「警察が捜査中なので、具体的な話は言えない」としている。(吉川真布)
今も30人が入院
岐阜市によると、病院には8月29日現在で45人が入院していたが、15人が相次いで転院し、9月末現在の入院者は30人に減った。新たな入院患者は受け入れておらず、先月29日以降、死亡した患者はいないという。3、4階のエアコンは9月5日に復旧し、現在はこれらの階にも患者が戻っているという。
「落ち着いてきました。正直、ほっとしています」。父親が入院しているという岐阜市の50代女性は、こう心境を語った。父親は持病に加えて軽い認知症の症状も見られ、転院を繰り返して藤掛第一病院に入院した。「報道で騒ぎになった時、転院も考えました。でも転院先を出なければいけなくなった時、ここに戻って来られるかと考えたら動けなかった」
入院患者の多くは高齢者で、藤掛院長は病院のホームページで「本院が終(つい)のすみかとなられることが多く、患者様の快適性を追求して日々改善しております」と紹介する。認知症の妹が入院している岐阜市の60代男性は、病院側から「『看取(みと)り病院』だと思っていただいていい」と説明を受けたという。
入院患者の家族からは、問題発覚後も「病院に不信感はない」「長く入院して、面倒を見てくれていた」との声があった。元職員は「介護施設に入れず、他の病院が受け入れない高齢者、家族がいない人、生活保護を受けている人なども多かった」と証言する。
市は現在、病院に入院患者などの状況報告を毎日求めている。担当者は「少なくとも8月20日から28日までの病院内の対応について、最終的な報告を受けるまでは継続して続ける」としている。(室田賢、松浦祥子)