日本と東南アジアのメコン川流域5カ国による日メコン首脳会議が9日、東京で開かれ、協力の指針を記した共同文書「東京戦略2018」を採択した。日本と5カ国の関係は「戦略的パートナーシップ」に格上げされ、影響力を強める中国への日本の対抗心がにじむ内容となった。一方で流域国が抱える人権や民主化問題といった「普遍的価値」をめぐる日本の姿勢はあいまいなままだ。
日本とメコン地域、連携強化へ 南シナ海の対中国対策も
会議後の共同記者発表で安倍晋三首相は「日本企業のメコン地域への投資は、過去3年間で2兆円を超えた」と強調。さらに民間投資を後押しするとした。また、「平和で開かれた南シナ海を実現するために連携していくことを確認した」とも発言。メコン地域に巨額の支援、投資で浸透を図り、南シナ海の実効支配も進める中国を牽制(けんせい)した。
日本の姿勢をメコン流域国の首脳は歓迎した。ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は「日メコン協力はサクセスストーリー」と持ち上げた。
ただ、流域国が日本の姿勢を歓迎するのは経済支援だけが理由ではない。自国が抱える人権、民主化をめぐる問題で、日本が批判を控えているからだ。
ミャンマー西部ラカイン州に住む少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害問題をめぐり、スーチー氏は国際社会から厳しい批判を浴びているが、9日、安倍氏はスーチー氏との個別の会談で「ラカイン州情勢などのために尽力されていることを評価する」と述べた。スーチー氏は「日本の理解、協力に感謝します」と応じた。日本はミャンマーと国際社会の「橋渡し役」を自任してきた。
ロヒンギャ問題をめぐる混迷もあり、外国からの投資額が減り続けるなか、日本からの投資は昨年度に過去最高を記録。外交筋は「日本にミャンマーへの影響力を拡大したい思惑がある一方で、ミャンマー側には日本を『風よけ』に利用している側面もある」と指摘する。
カンボジアへの日本の姿勢もあいまいだ。最大野党が解党され、7月の総選挙でフン・セン首相の与党が下院の議席を独占。国際社会の非難が集中するが、8日の個別の首脳会談で安倍氏は「これからもしっかりと民主化を進めてほしい」と述べるにとどめた。
背景にあるのは、中国の存在だ。日本政府関係者は「あまり突き放すと、中国への傾斜を強めるだけだ」と話す。フン・セン氏は9日の共同記者発表で「日本企業にもっと投資してほしい」と訴えた。メコン地域の外交関係者は「中国への対抗心を見透かされているようだ」と漏らした。(鬼原民幸、染田屋竜太、バンコク=貝瀬秋彦)