東京電力福島第一原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人の第32回公判が19日、東京地裁であり、元副社長・武黒一郎被告(72)の被告人質問が始まった。事故の3年前に経営トップらが参加した「御前会議」で、国の地震予測に基づく津波対策がいったん了承されたとする元部下の供述調書については「『了承』というのは強引だ」と述べ、否定した。
元会長・勝俣恒久(78)、元副社長・武藤栄(68)の両被告も強制起訴されており、被告人質問は武藤氏に続いて2人目。武黒氏は、公判で津波対策の検討状況が焦点となっている2008年当時、原発部門を統括する原子力・立地本部長で、副本部長の武藤氏の上司だった。
検察官役の指定弁護士は東電元幹部の供述などに沿って、08年2月の「御前会議」で国の地震予測「長期評価」に基づいて簡易計算した「7・7メートル以上」の津波予測と対策を記載した資料が配られ、3被告が対策を了承したと主張している。しかし、この日の公判で武黒氏は「資料は必ずしも全て説明されない。7・7メートル以上という津波の説明を受けた記憶はない」と発言。御前会議は「意思決定の場ではない」として、「了承と言えるものではない」と述べた。
3被告の中で武黒氏だけが出席した、08年3月の常務会では「津波の評価が従前を上回る可能性あり」という資料が配られ、議事録には「提案は了承された」と記載されている。この点について問われた武黒氏は「津波の評価についての説明は記憶にない」と主張。「了承」したのは、原発の地震対策見直しに関する国への中間報告の内容で、津波の評価は「常務会が決定できることとは思わない」と述べた。
武黒氏は被告人質問の冒頭、原発事故について「原子力発電の責任ある立場にあった者として深くおわびを申し上げます」と述べ、被害者らに謝罪した。(杉浦幹治、川原千夏子)