収穫した野菜や果物を自動で運び、栽培に適した土づくりも手助けする。そんな「スマート農機」の開発に、大阪の自動車部品メーカーが挑戦している。電気自動車(EV)の普及でビジネスの潮流が変わりつつあるなか、新たな事業の柱を育てようと若手の社員らが立ち上がった。
かつて紀州街道の宿場町としてにぎわった、大阪府阪南市の山中渓地区。山あいの畑を歩く人の後ろを、大きなカゴを載せた車がついて走る。画像センサーで人を認識し、ついて行く自動運転の台車だ。
金属加工の中西金属工業(大阪市)が開発中の「agbee(アグビー)」は、収穫した野菜をカゴに次々に積み込んでもビクともしない。軟らかい土の上やでこぼこ道も、クローラー(無限軌道)でどんどん進む。
農家を重い台車を押す苦労から開放するだけではない。台車は収穫物の重さもはかり、土に差し込んで土壌の酸性度(pH)や水分量を計る別の機器と組み合わせれば、どんな土が野菜や果物の成育に適しているかの分析もできる。
開発しているのは、中西金属の若手社員5人。同地区の空き家を借りた「サテライトオフィス」にパソコンや工具を持ち込み、来年度中の発売に向けたテストを繰り返している。
リーダーの木村光希さん(35)は「名付けた通りに、働き蜂(bee(ビー))のように動き回って農家を助けて欲しい」。協力する地元の水ナス農家、草竹茂樹さん(43)の期待も大きい。農薬を散布する機械を取りつけ、疫病の発生情報に応じて自動で散布させるといった使い方も考えられ、「農業界をひっくりかえせるかもしれない」と話す。 今のところ、価格は1台300万円程度の想定。まず今年11月から地元農家に25台分を貸し出し、使い勝手を試してもらう予定だ。
1924年創業の中西金属は、自動車の部品をつくる中堅企業。エンジンや変速機に組み込まれるベアリング(軸受け)の内部部品「リテーナー」のシェアでは世界トップを誇る。
ただ、本業の先行きは楽観できない。ガソリン車で1台あたり100~150個使われるベアリングは、急速に普及が進むEVになると7割減ってしまうという。中西竜雄社長(53)は「自前で新製品を開発できない企業は生き残れない」と「脱下請け」の必要性を強調する。
農機の開発は、その挑戦のひとつだ。2014年に若手を集めて意見を募った結果、農作業を「つらい仕事から楽しい仕事に変える」という目標を定めた。
木村さんは一連の開発を通じ、自分たちで一から開発する面白さに魅せられている。「いつか、アグビーをフェラーリのような世界の有名ブランドに育てたい」と話す。(伊藤弘毅)