世界各国が観光客誘致にしのぎを削る中、オランダのアムステルダム市は観光客の抑制にかじを切った。
「夜中もこんなにうるさいとは思わなかった」。1年ほど前、アムステルダムの郊外から中心部に引っ越してきた美術史家のヒールチェ・ワーンダースさん(59)は今、訪れる観光客に悩まされている。
酒に酔って朝方まで外で叫ぶ外国人。路上に捨てられるゴミ。民家への破壊行為。観光シーズンの春から夏にかけて一層ひどくなり、夜は不眠がちになる。「来る人は歓迎したいが、迷惑行為は歓迎できない」
観光業者も困惑する。創業70年の遊覧船会社ローファースのPR担当、セルジオ・セーハースさんは「運河を巡りながら大麻を吸う『スモークツアー』や酒が飲み放題のボートも出てきた。遊覧船のイメージにも悪影響があるから取り締まってほしいが、市の態勢が追いついていない」。
観光客が増え始めたのは10年ほど前からだ。
市や観光業界が連携して2004年に打ち出したキャンペーン「I amsterdam」が浸透。運河地区が10年に世界遺産に指定され、空港の拡張も追い風になった。中国など新興大国の中間層が増えたことも手伝い、08年に452万人だった観光客は16年、市の人口の8倍超の700万人を突破した。
アムステルダムの広さは東京都の10分の1ほど。ゴッホ美術館やアンネ・フランクの家など見どころが集中する中心部が観光客でごった返す事態になった。市の広報戦略などを担う機関「アムステルダム・マーケティング」は「観光市場のこれほどの成長を予想した人はいなかった」と言う。
一部の観光客のマナーの悪さと市民生活への影響を問題視し、市は14年、観光客を抑制する方向に大転換した。
あの手この手で観光の制限を始めたアムステルダム市。だが、思うような効果は上がっていない。
誘致キャンペーンをやめ、中心…