韓国と北朝鮮は1日、南北軍事境界線近くでの敵対行為を全面的に停止した。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は同日、「南北間の軍事衝突の危険を完全に取り除いた」と主張したが、北朝鮮軍の攻撃を防ぐ能力の低下を懸念する声も出ている。
韓国と北朝鮮、軍事境界線近く飛行禁止 首脳会談の合意
敵対行為の全面停止に含まれるのは、軍事境界線から南北に計20~80キロの空域での飛行禁止区域の設定、境界線に近い一部区域での砲射撃訓練禁止など。韓国国防省は「偶発的な軍事衝突を防ぐことができる」と説明している。
9月の南北首脳会談で合意した措置だが、韓国軍の元将校らでつくる団体は10月中旬、安全保障に悪影響を与えるとの懸念を表明した。団体の会員によると、飛行禁止区域ができると無人機の使用ができなくなり、北朝鮮が軍事境界線の近くに300~500門を展開する長距離砲の配置や、20万人とされる特殊部隊の動きを探ることができなくなるという。韓国国防白書によると、北朝鮮軍は軍事境界線寄りに陸軍110万人の7割を配する。
この会員は「相互信頼には情報公開が不可欠。今回の措置は不信感をむしろ増幅させる」と語る。
今回の措置で、2010年11月に北朝鮮軍の砲撃を受けた大延坪島(テヨンピョンド)などでは射撃訓練もできなくなった。韓国軍は本土で代わりに演習を行うとしている。
防衛力低下の懸念は、在韓米軍との関係からも指摘されている。韓国はこれまで、在韓米軍基地で働く韓国人の人件費など年約9600億ウォン(約960億円)を負担してきた。さらに米国は米戦略兵器の朝鮮半島派遣費用の負担も要求。韓国が強い難色を示し、10月の米韓協議でも結論が出なかった。
米韓は11月にワシントンで開く協議で決着させたい考えだ。韓国の閣僚経験者は「次に決着できないと、トランプ米大統領が在韓米軍の削減を言い出さないか心配だ」と語る。協議の行方は、米国と同盟関係にある日本やドイツの交渉にも影響を与える可能性もある。(ソウル=牧野愛博)