英国の欧州連合(EU)からの離脱が、25日のEU首脳会議でようやく妥結した。だが、主要課題の解決は来年3月末の離脱後に先送りする「苦肉の策」を取った。英国では議会の反発を抑えられる見通しも立たず、EUとの再交渉論まで浮上している。
英・EU、離脱条件で正式合意 焦点は英議会の承認に
EU離脱協定、来月11日に採決へ 過半数確保は不透明
今回の合意は新たな交渉の始まりに過ぎない。英国とEUの利害が対立する案件の調整は、来年3月末から2020年末までの「移行期間」に先送りされた。
特に通商協定の交渉は、通常でも5年以上かかる例が珍しくない。仮にEUとカナダの包括的経済貿易協定に倣えば、人の移動を制限でき、EU予算の負担も避けられる。代わりに、金融機関がEU加盟国一つで許可を取れば域内で自由に営業できるシングルパスポート制度は失われ、英経済を支える金融業には逆風となる。何を優先させるかで交渉はもつれそうだ。
漁業権も問題になっている。フランスやオランダなどは、資源が豊かな英国領海でEUの漁船が漁を継続できるようにすることを求めているが、その交渉は移行期間に持ち越された。
今回の合意は、12月10日以降と予想される英議会の採決で承認を得られなければ、白紙になる。
EUのユンケル欧州委員長は25日、「これが最高の合意だ。もっといい合意ができると拒絶すれば、すぐに失望することになるだろう」と語り、英議会を牽制(けんせい)した。他の首脳も「この合意以外の選択肢はない」と述べ、「合意あり離脱」を主導するメイ英首相を「援護射撃」した。
英議会が合意を否決し、「合意なし離脱」となれば、来年3月29日深夜の離脱の瞬間に社会の仕組みが突然変わり、経済や市民生活の混乱が予想される。
英国では、「EUも合意なし離脱を避けたい」とみて、英議会が合意を否決した場合もEUは再交渉に応じてくれ、その後に英議会で再度採決すれば「合意なし離脱」は避けられる、とする楽観論も目立つ。さらに、EU離脱をめぐる国民投票の再実施や、保守党の反メイ派が党首選を望む声もあり、混迷の度合いが深まっている。(ロンドン=下司佳代子)
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英国とEUが合意した離脱協定と政治宣言
〈離脱協定のポイント〉
・2019年3月~20年12月を移行期間とし、1回だけ最大2年延長可能
・双方の在英、在EU市民の社会保障受給権などを保障する
・英領北アイルランドの国境問題を解決できない場合、英国は20年7月までに移行期間の延長か、EUの関税同盟への残留かを選ぶ
〈政治宣言のポイント〉
・英とEUの将来の関係は、英国の自治とEUの単一市場の原則を尊重したものにする
・自由貿易圏創設を含む通商協定を結ぶ
・移民を制限する英国の意思を尊重。人の移動に関して新たな取り決めを結ぶ
・持続可能な漁業のため新たな協定を結ぶ