南海トラフ地震に向けた国の新たな対応方針がまとまった。想定震源域内の一部でマグニチュード(M)8級の巨大地震が起きた場合、ほかの地域の住民が、さらなる地震を警戒する期間などを初めて示した。今後、地域ごとに具体的な対策づくりが求められそうだ。
特集 南海トラフ地震の被害想定
「空振りは前提だが、この情報を活用すれば被害を激減できることを理解する必要がある」――。中央防災会議の作業部会で主査を務めた福和伸夫・名古屋大教授は11日、報告書案についてこう話した。
報告書案は、大地震が起こる可能性が高まったと判断された場合の防災対応を示したものだ。気象庁は昨年11月、異常な現象が起きた際に「臨時情報」を発表する仕組みを導入したが、自治体などは具体的な行動について、国が一律の方針を作るよう求めていた。
想定される三つのケースのうち、特に「事前の避難が望ましい」としたのは、震源域の半分でM8級が起きた「半割れ」のケース。過去に世界で起きた103例のうち、1週間以内に隣の地域でもM8級以上の地震が起きたのは7例で「十数回に1回」の頻度だった。自治体アンケートの結果では、住民が避難に耐えられる期間は1週間程度という回答が多く、特に警戒する期間を1週間とした。
一方、一回り小さいM7級が震源域で起きる「一部割れ」は、避難までは求めなかった。1週間以内にM8級以上の地震が続くのは「数百回に1回」。備えを再確認するなど警戒レベルを上げ、必要に応じて自主避難する対応にとどめた。
人が揺れを感じず、被害が出ていない「ゆっくりすべり」のケースは前例がなく、大地震との関連がわからないため、「一部割れ」と同様の対応にした。M7級の地震は南海トラフで15年に1回の頻度で起きており、「一部割れ」の対応は何度も迫られる可能性がある。
山岡耕春・名古屋大教授は「確実ではない情報への対応は新しい考え方で、何もしないより意味があることだ。一方で、想定は裏切られることもあるので、起きた事象に迅速に対応することも重要だ」と話した。
■事業停止の長期化……