2027年開業のリニア中央新幹線は、名古屋から東京・品川まで6都県に駅が造られる。リニア名古屋駅の予定地は今どうなっているのか。記者が歩いた。
リニア中央新幹線
名古屋駅、変わりゆく街
「駅裏」
超高層のオフィスビルが立ち並ぶJR名古屋駅の東側から中央コンコースを抜けた先の西側は、かつて、そう呼ばれた。
戦後、バラックなどが立ち並ぶ闇市が栄えた。「女性が一人で歩くと危ない」。そんな声がささやかれるほどで、行政もうかつに手が出せない場所だった。だが、1964年の東海道新幹線開業に伴い、区画整理で姿を変えた。それから半世紀。今度はリニア中央新幹線開業に向けて変わる「名駅」を、街の人たちも受け入れようとしている。
2代続いて区画整理で立ち退き
「名古屋は区画整理があれば全部どくの。豊臣秀吉の時代から、そう」
駅から徒歩5分。戦後間もなく移り住み、その後すし店を開いた倉科(くらしな)博之さん(74)は力説する。店の敷地は用地買収にかかり、今年度中には立ち退かないといけない。
リニア新駅のためにJR東海が交渉する地権者は約120人、取得面積は約2万3千平方メートル。金子慎社長は今月の記者会見で取得状況について「西側の件数は5割を超えた」と説明した。
父親も駅前の別の土地ですし店を営んでいたが、新幹線開業に伴う区画整理で立ち退きを迫られた。親子2代にわたり同じ運命をたどるが、それを受け入れる。「もう年だから。世の中には定年ってのがある」
「1坪500万円」「転売目的で投資も」
駅西周辺を歩くと新駅の予定地に沿って所々に更地が見える。「JR東海 管理地」。注意書きとともにワイヤで四方が囲まれる。
その裏で、不動産業者もそろばんをはじく。「JRが立ち退きの代替地として1坪500万円で買ってくれるそうだ」。一時期、駅西から少し離れた一帯を指し、そんな情報が業者内で流れた。地元の不動産会社の社長も「駅西の地価は、もっともっと上がる。ホテル用地としての需要も高く、転売目的の個人投資家がねらっている」と話す。
一方、名古屋駅太閤通口まちづくり協議会は、6年前から地元の神社周辺などで催しを開き、活性化に取り組む。地下に建設されるリニア名古屋駅の地上部分の活用策として、子育て世帯が足を運べ、災害時の防災拠点も兼ねた広場の設置をJRや名古屋市に求めている。
生まれも育ちも駅西という事務局長の河村満さん(62)は話す。「新幹線開業、世界デザイン博覧会、そしてリニア開業。駅西は20、30年おきぐらいに生まれ変わってきた。今度もそうさ」
「リニアマネー」をめぐって過熱する土地投機。街なかの雑踏にまじって建物を解体する工事の音が聞こえてくる駅西で、地元住民や店主らによる地に足をつけた挑戦も始まっている。(佐藤英彬)
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《リニア中央新幹線》 電磁石の力で浮上・走行する。最高時速約500キロ。2027年に名古屋―品川間が先行開業し、所要時間40分で結ばれる。発着駅のある愛知県と東京都以外に、岐阜、長野、山梨、神奈川各県の地上や地下に中間駅が設けられる。最短で37年に新大阪へ延伸する予定。建設費用は約9兆円。