2027年開業のリニア中央新幹線は、名古屋から東京・品川まで6都県に駅が造られる。中間駅の建設が予定されている神奈川県相模原市、新たな出発地、終着地となる東京都品川区を記者が歩いた。
リニア中央新幹線
用地は県立高校移転跡地 神奈川県駅
牛が草をはみ、ヤギが愛らしい鳴き声をあげる。近くのコスモス畑では、今を盛りとばかりにピンク色の花びらが風に揺れ、一面を鮮やかに彩る。畑の向こうには時折、列車の通過音が響き、駅に列車が滑り込んでいく。
リニア中央新幹線の神奈川県駅は、JRや京王線が乗り入れる橋本駅(相模原市)の南口、県立相原高校の移転跡地にできる。
同校では農業、商業の4学科で約700人が学ぶ。牛約20頭や豚約40頭、ニワトリ約320羽も暮らし、年に2千人以上の子どもが見学に来る人気ぶりだ。OBでもある岩崎秀太教頭(49)は「街の小さな動物園といった感じで親しまれてきた」と話す。
1923年に開校し、卒業生は約1万7千人。駅前に位置し、街の変遷を見つめてきたが、地下にできるリニア新駅の建設で、来年4月に西に2キロほど離れた新校舎に移り、新たな歴史を刻み始めることになる。
新駅の開業を見越し、橋本駅周辺は地価が上昇。今春発表された公示地価では、住宅地の上昇が大きい県内の10地点のうち4地点は、橋本駅周辺が占めた。地元の不動産会社からは「橋本バブル」との声があがるほどだ。
ただ、「過熱」と裏腹に、橋本駅の周辺を歩いても「リニア」の文字はほとんど見かけない。相原高校前で、先代から60年ほど文具店を構える亀山謙治さん(67)は「生活に便利な新路線ができるわけではないし、住民は淡々としている。リニアに試乗したけど、私なら新幹線で行くかな」と笑う。
夕暮れ時、校舎の向こうにたたずむ高層マンションに明かりがともると、校内は闇に包まれてた。3年生が巣立つと、校舎もその役目をピカピカの「後輩」に託す。正門そばには、巨大なクスノキがそびえる。街のシンボルとして愛されてきたが、衰えが目立ち、現在の校舎とともにこの地で静かに「最後」を迎えるという。(岩尾真宏)
人の流れ、大きく変化 品川駅は地下で着々建設
東京都港区にある品川駅は、東海道新幹線、JR東日本の在来線、成田と羽田の2空港につながる京浜急行電鉄が走る一大ターミナルだ。2017年度の年間乗降客は4億682万人。この10年間で5953万人増えた。地下にできるリニア中央新幹線の新駅は、品川駅の東側で建設が進む。
近年、品川駅周辺にはビルが次々と建っている。15年にできた「品川シーズンテラス」は港南口(東口)に近く、約30社が入る。企業の多くは港区外から移ってきたという。
ユニー・ファミリーマートホールディングスは19年2月、品川駅にほど近い田町駅(港区)周辺に池袋から東京本社を移す。広報室担当者は「全国の事務所への利便性も上がる」。
田町駅と品川駅の間に山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」が20年に開業する。新駅に近い高輪神社の禰宜(ねぎ)滝雅人さん(56)は「人の流れもずいぶん変わるのでは」と話す。新駅建設に合わせ、品川駅構内でも今年、在来線の路線を切り替える工事が始まった。駅舎を広げ、品川駅高輪口(西口)に自動運転車に乗り降りできる「次世代型交通ターミナル」や広場を設ける案の検討も進む。
港区民の数も増えている。田町駅と品川駅周辺は東京湾岸の工場跡地にマンションが続々と建ち、若い世帯が増えたからだ。なかでも、区立芝浦小学校は児童数が5年ほど前から急増。教室不足が見込まれ、別の小学校を22年に新設することになった。
社会科見学も宿泊学習も学年全員では行くことはできず、いつも2回に分けているという。図工室は2室から3室、音楽室は3室から4室、給食室も2室に増やす予定だ。
「リニアができ、技術は進歩し、子どもたちの生活圏は広く、忙しくなっていく。そんな未来でも、芝浦小の子どもたちには、ぜひ新しい技術を活用し、社会のため、人のために貢献してほしい」。三浦和志校長は希望を託す。(江向彩也夏)