天皇、皇后両陛下は在位中最後の年始を迎え、宮内庁を通じて昨年1年間に詠んだ歌を発表した。天皇陛下は5首。沖縄県を訪問時、地元有志による提灯(ちょうちん)での歓迎の様子などを詠んだ。皇后さまは3首で、皇居・御所に移って間もない時期の若い天皇陛下を思い起こして歌にしたという。
▽天皇陛下
〈第69回全国植樹祭〉
生ひ立ちて防災林に育てよとくろまつを植う福島の地に
〈第73回国民体育大会開会式〉
あらし迫る開会前(まへ)の競技場福井の人ら広がりをどる
〈第38回全国豊かな海づくり大会〉
土佐の海にいしだひを放つこの魚(うを)を飼ひし幼き遠き日しのぶ
〈沖縄県訪問〉
あまたなる人ら集ひてちやうちんを共にふりあふ沖縄の夜
〈西日本豪雨〉
濁流の流るる様を写し出だすテレビを見つつ失せしをいたむ
▽皇后さま
〈与那国島〉
与那国の旅し恋ほしも果ての地に巨(おほ)きかじきも野馬(のうま)も見たる
〈晩夏〉
赤つめくさの名ごり花(ばな)咲くみ濠べを儀装馬車一台役(やく)終(を)へてゆく
〈移居といふことを〉
去れる後(のち)もいかに思はむこの苑(その)に光満ち君の若くませし日
年頭の感想は16年が最後
天皇陛下は即位翌年から2016年までの年頭にあたり、宮内庁を通じて文書で感想を発表してきた。
戦争への言及が目立つ。戦後50年の1995年には「過去を振り返り、戦争の犠牲者に思いをいたす」「改めて世界の平和を祈りたい」とつづった。戦後60年が過ぎた06年にも「多くの犠牲の上に今日の日本が築かれたことに思いを致さねばなりません」と述べた。
戦後70年の15年には「満州事変に始まるこの戦争の歴史」と具体的に時代を限定し、十分に学び、日本のあり方を考えていく大切さを訴えた。宮内庁関係者は「新年にあたるタイミングで、戦争の記憶が風化しないようにとの思いを多くの人たちに伝えたかったのだろう」とみる。
被災地への思いも繰り返し述べた。阪神・淡路大震災から1年となる96年には「復興が一日も早く成し遂げられ、人々の生活が安らかになるよう念願しています」。東日本大震災発生の翌年の2012年には「これまで生活していた地域から離れて暮らさなければならない人々の無念の気持ちも深く察せられます」。16年には「被災地域の復興が少しでもはかどるよう、願っています」と被災者を思いやった。
その時々の主な出来事にも言及。97年には前年末から続いていたペルー日本大使公邸人質事件について「家族と共に新年を祝うことが出来ない人々のことを思うと本当に心が痛みます」。2002年には前年9月の米同時多発テロに触れ「世界の安定と平和を維持するため、国々の間に更なる友好と協力が強く求められていることを感じます」と述べた。
宮内庁幹部によると、天皇陛下は毎年、12月23日の天皇誕生日会見が終わる頃から、年頭の感想と、1月2日の新年一般参賀のおことばを考えてきた。加齢に伴う負担を考慮し、年頭の感想は16年の新年が最後となり、17年からは両陛下の歌だけが公表されている。(島康彦)
退位までの予定
天皇陛下は4月30日に退位するまで、全ての務めを続ける意向を示している。1月7日に在位30年を迎え、2月24日に政府主催の「天皇陛下在位30年記念式典」に出席。4月10日には結婚60年を迎える。退位の報告などで3月26日に神武天皇山陵、4月18日に伊勢神宮に参拝する。