日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が私的な損失を日産に付け替えたなどとして逮捕された特別背任事件で、前会長が日産子会社からサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏に送金した約16億円について、子会社の担当者(当時)が東京地検特捜部に「明らかに不自然な支出で、現場から要請もしていない」と証言していることが、関係者への取材でわかった。特捜部は約16億円が使途不明の支出であり、実態は前会長らの私的な利益を図るものだったとみて調べている。
家は宮殿そばの大富豪、仕事に厳しく…ゴーン氏の送金先
カルロス・ゴーン もたらした光と影
ゴーン前会長はジュファリ氏への約16億円について「現地の販売店のトラブル処理や、投資を呼び込むための王族へのロビー活動、王族や政府との面会の仲介を担ってもらっていた」として、「仕事への正当な対価だった」と主張。弁護人も「王族との面会の適正価格を評価するのは難しい。無報酬でやることはありえない」と主張している。
これに対し、ドバイの子会社「中東日産」の担当者は、ロビー活動などのためであれば、現場から「緊急で数億円が必要」などと本社に支出を求めるのが普通だと説明。現場ではジュファリ氏によるロビー活動の必要性は感じておらず、「約16億円は上司の命令でそのまま送金した」と証言しているという。
また、中東日産の年度ごとの事業目標について達成できたかどうかを計算する際、約16億円の送金は支出に含まれていなかったことも判明。特捜部は証言や資料から、ゴーン前会長がCEO(最高経営責任者)直轄の「CEOリザーブ(予備費)」を使って、トップダウンで送金を指示していたとみている。
ゴーン前会長は、約18億5千万円の評価損を生んだ私的な取引をめぐって、ジュファリ氏から約30億円分の信用保証の協力を得た見返りに、中東日産から計1470万ドル(現在のレートで約16億円)を不正に送金した疑いが持たれている。2009年6月~12年3月の間の4回にわたり、「販売促進費」などの名目で送金したとされる。