フランス政府の燃料税引き上げ方針に抗議して全土に広がったジレジョーヌ(黄色いベスト)運動の参加者が、再び増えている。デモは毎週土曜に行われ、28万人以上が参加した昨年11月17日をピークに減少。昨年末は最少の約3万2千人だったが、1月12日は約8万4千人だった。人々の怒りはどこから来るのか。運動の主な舞台である地方を訪ねた。
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パリの南西約150キロにある人口2万人弱のバンドーム。郊外の交差点の近くにテントを張り、黄色いベストを着た人々が座り込んでの抗議活動を連日続けている。地元当局から撤去を迫られるたびに引っ越し、協力者が提供してくれた私有地に落ち着いた。
メンバーの一人、ミシェル・アラールさん(81)はここから8キロ離れた人口234人のロセに暮らす。ロセ唯一の公共交通機関は朝夕1本ずつのスクールバスだけ。カフェも郵便局もない。「村の唯一の公共施設」という役場は、開くのは週2日だけだ。公立病院には車で30分かかる。
アラールさんの年金受給額は月額861ユーロ(約10万7千円)だ。社会保障税の引き上げなどで、3年間で月額80ユーロ(約1万円)の減収になった。「昔は郵便局や税務署、銀行も近くにあった。でも今は何もない。もうここで生活するのは不可能だ」と嘆く。
バンドームに住み、アラールさんと一緒に座り込みを続ける季節労働者のアレクサンドルさん(45)は、「地方には身近に公共サービスがない。だから、車が必要なんだ。それなのに政府は燃料税を引き上げるという。多くの地方住民が堪忍袋の緒が切れた。バスも地下鉄もあるパリのエリートに、地方の実情がわかるわけがない」と憤る。
仏政府はジレジョーヌ運動の盛り上がりを受けて、デモ規制強化や運動拠点撤去、政府と国民の対話集会の実施方針を打ち出し、収束をはかってきた。だが、地方では逆に運動は定着しつつある。
「大きな政府」に限界
地方でジレジョーヌ運動に参加する住民の多くが、「病院の看護師が少なすぎる」「村から産院や郵便局が消えた」と訴え、公共サービスの充実を求めている。
パリ政治学院のピエール・カユク教授(マクロ経済)は「フランスは伝統的に、高い税金や保険料の代わりに国民に手厚い公共サービスを提供する『大きな政府』だった。だが、80年代半ばからの歴代政権は、支出削減や企業の競争力強化を試みてきた。ジレジョーヌの怒りは、その路線への反発だ」と指摘する。
「財政赤字に苦しむ政府にとって、公共サービスはずっと削減対象だった。富裕税を廃止し、企業の競争力強化を重視するマクロン大統領はジレジョーヌ運動の引き金を引いたが、彼だけの責任ではない」