自動車メーカーなど日系大手も多く進出するタイ。在留邦人の数は7万2千人を超え、その規模は米国や中国に次ぐ4番目の多さで、日本人ネットワークを形成してきた。スタートアップの世界でも、日本から飛び出す起業家の「よりどころ」になるような場所ができつつある。
外国人も多く住むバンコク中心部の一角。ガラス張りのしゃれた屋内で、タイ人や日本人が普段着で談笑している。各国の起業家が集う拠点として昨年秋にオープンした共同ワーキングスペース「モンスターハブ」だ。
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3階建ての建物の半分が貸しオフィスで、残りは共用スペース。500円程度で半日から使える。2、3階の個室には、すでに豪やトルコのスタートアップ、投資や助言をする欧米のアクセラレーターと呼ばれる企業が入居している。
駆け出しの起業家が市場の特性を知る先輩の助言を受けたり、入居者どうしの技術を融合させた新しいアイデアが生まれたり、といった「化学反応」が起きる場になることが期待されている。このためハブ内にはコミュニティーを活性化させる担当者がいて、昼食会なども企画される。
モンスターハブをつくったのは、日系エンジニア集団であるモンスターラボ社。もともとウェブシステム、アプリなどの制作を担い、世界に20カ所以上の拠点を持つスタートアップ企業だ。各国の拠点にいる多国籍の人材を、制作内容に応じて最適に組み合わせ、デザインしたりプログラミングしたりしているという。
同社が今回のようなワーキングスペースを運営するのは初めてだという。これまでは先進国で営業して仕事を取り、ベトナムやバングラデシュなどの賃金安いところで制作するというビジネスモデルだった。それを中長期的な視点に立ち、成長する東南アジアに起業家たちが集う拠点をつくり「化学反応」を起こさせることで自社の成長にもつなげようと、実験的に設けたという。
タイ拠点長の辺田(へた)剛士さんによると、バンコクには50~60カ所の共用ワーキングスペースがあるが、交流会などを開くところはまだ少ないという。そうした狙いについて辺田さんは「農業や製造業の次のタイの産業を応援しませんか、と呼びかけています。日系ともつながれる場所というのが売り。我々もつながり、成長を狙っていきたい」と話している。(鳴澤大)