少女の発したSOSを誰か受け止めることは出来なかったのか。千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(10)が死亡した事件は、長期にわたって虐待の兆候が確認されていた。しかし学校も行政も地域も踏み込まず、命を守れなかった。
「けられて 今もいたい」
心愛さんと日常的に接していた学校は、2017年のアンケートなどで虐待を把握していたが、救えなかった。
市によると、心愛さんが父親の栗原勇一郎容疑者(41)=傷害容疑で逮捕=からの暴力を訴えた翌日、担任が聞き取りをしていた。市が1日夜に公開したアンケートのコピーには担任の字で「きのうのたたかれた あたま、せなか、首をけられて 今もいたい」「口をふさいで ゆかにおしつける→自分の体だいじょうぶかな?」などと書き加えられていた。
文部科学省の松木秀彰・生徒指導室長は1日午後、急きょ野田市教委を訪れ、約1時間にわたって事情を聞き取った。心愛さんが父親からの暴力を訴えたアンケートのコピーを、市教委が父親に渡したことは「虐待のリスクを高める、極めて不適切な対応」として、行政指導をした。
文科省は当初、「市教委の対応に大きな問題はない」という立場を取っていた。しかし、アンケート結果を渡していたことが1月31日に判明すると、対応を一転。柴山昌彦文科相は1日の会見で、「アンケートの中身を教えたことが、事件の遠因になったという思いを強く持っている」と述べ、松木室長を派遣した。
聞き取りを終えた松木室長は報道陣に「保護者から強いプレッシャーがあったとしても、児童相談所や警察、法律の専門家と連携していれば、渡すという判断にならなかったはずだ。被害を被るのは子どもであり、子ども第一に考えるべきだ」と話した。
市教委がアンケートの回答を渡してしまった直後、心愛さんは転校した。だがその後も、虐待に気づく機会はあった。心愛さんが新たに通っていた小学校は、今年1月7日と11日に父親から長期欠席の連絡を受けながらも自宅訪問などをせず、24日になって心愛さんが遺体で見つかった。この間の対応について、松木室長は「命を救えた可能性がある最後の最後のところ。検証がより重要と考えている」と話した。
子どもの虐待に詳しい加藤尚子・明治大教授(臨床心理学)は、「学校は子どもの様子を毎日確認できる場であり、虐待対応の最前線であるとの意識を持ってほしい。その点が今回の事件では希薄だったと感じる」と語る。一方、虐待については学校が、保護者との対応で困ることは珍しくないといい、「児相は、学校とともに、保護者が来校した場合の対策を事前に練るなど、支援をするべきだった」と注文した。
親族「心愛さんは恫喝(どうかつ)されている」
児童相談所も対応が後手に回っ…