水俣病の実相を描いた小説「苦海浄土」で知られる作家、石牟礼道子さんが昨年2月に90歳で亡くなって丸1年となり、石牟礼さんの追悼講演会が10日、福岡市中央区のギャラリー「エウレカ」で開かれた。約50人が参加した。
【特集】石牟礼道子さんの人生を振り返る
石牟礼さんと40年来の親交があった熊本県八代市の元高校教師、前山光則さん(71)と、石牟礼さんの取材を続けてきた毎日新聞記者の米本浩二さんが登壇。前山さんは「苦海浄土」は「聞き書きではなく小説」と指摘し、石牟礼さんが患者たちの心の内をくみ取れたのは「人の悩みを自分の悩みとして、もだえる人だったから」と語った。
ゲストとして来場した作家の池澤夏樹さんは「人間の共感力について考えさせられた。頭でっかちになっていないか、と疑問を持ちながら読み返したい」。(上原佳久)
熊本では朗読会
石牟礼さんが亡くなって10日で1年。熊本県水俣市で、水俣病を語り継ぐ朗読会があった。今回で3回目で、会場には石牟礼さんの遺影が飾られた。
石牟礼さんが心を通わせていた胎児性水俣病患者の加賀田清子さん(63)は、自身にまつわる石牟礼さんの作品を取り上げた。加賀田さんが「いろいろ辛(つら)かばってん、がんばってね」「書くのも大変でしょう」と石牟礼さんを励ました場面を朗読。当時を思い出すと涙がこみ上げたが、最後まで読んだ。「道子さんはきっとこの会場に来ている。伝えていかなきゃと思った」
大津円さん(33)は石牟礼さんの「苦海浄土」の一節を読み、原因企業チッソの社長と対峙(たいじ)する患者の叫びに力を込めた。「人間な、なんのために、生まれてくるか、なんのために生まれてきたか。社長さん、わたしゃ、この年まで、愛も知らずに、恋も知らずに来ました……」
同市の一般社団法人「水俣病を語り継ぐ会」が、語り継ぐ手法として朗読に取り組んでいる。代表の吉永理巳子さん(67)は「寂しいですが、道子さんが大切にしていたものを、私たちが次世代に受け継いで語っていきたい」と話した。(奥正光)