静岡県の温泉地・熱海市で、旅館やホテルの開業ラッシュが起きている。一時は寂れた「東京の奥座敷」だが、宿泊客数は上昇に転じており、ここ2年で50軒近い施設が開業。東京五輪・パラリンピックも控え、地元では新たな「熱海ブーム」に期待が集まる。
相模灘を望む熱海市中心部の海岸沿い。小説「金色夜叉(こんじきやしゃ)」で知られる「お宮の松」そばの10階建てビルは現在、大規模な改装工事が続く。2001年に閉館した「つるやホテル」跡に建てられたビルで、商業施設の計画が頓挫してから10年以上にわたって放置されてきたが、香港系の業者が取得し、今年中には全室温泉付きの「熱海パールスターホテル」として開業する。同ホテルの菅原隆典・開業準備室長は「熱海は知名度があり、地の利もいい。ポテンシャルが非常に高く、需要はある」と期待する。
北隣には、落書きされた壁が残る約1ヘクタールの空き地が広がる。複数の旅館やホテルがあったが、バブル崩壊後にすべて廃業し、「塩漬け」になってきた。つるや跡とともに「廃虚」「熱海衰退のシンボル」と呼ばれたが、ここでも全327室の大型リゾートホテル「ラビスタ熱海」の建設計画が進む。1月の市の公聴会で開発業者の代理人は「オーシャンビューで温泉も出る。絶好の地」とアピールした。市によると、熱海駅前も含め、把握しているだけで10軒近くが新規開業を検討中という。
最盛期に、年間530万人を超えた熱海の宿泊客数はバブル崩壊後に激減。1990年度の約452万人から、2011年度は約247万人まで減った。宿泊施設も、720軒から313軒と半分以下になった。だが、宿泊客は12年度から増加に転じ、15年度以降は300万人以上で続いている。市内の旅館やホテルも17年度に22軒、18年度に25軒が開業し、昨年末時点で315軒となった。
大きな転換は、「団体客への依存からの脱却」だ。熱海市は07年から、観光業関係者に学識経験者や市民の代表を交えた「観光戦略会議」を立ち上げ、「ツアー、宴会、イベント」を前提とした観光を見直し始めた。NPO法人などは空き店舗をリノベーション(大規模改修)し、街中にカフェやゲストハウスを整備。旅館やホテルの一部は大宴会場をやめ、個室風呂を作るなど、個人旅行に対応するようになった。
市は首都圏の20~30代を意識し、SNSでのプロモーションも展開している。熱海梅園や桜並木の老木を早咲きの品種に替え、「どこよりも早い開花」をアピール。パワースポットとされる来宮(きのみや)神社の巨木や通年開催の花火大会で「インスタ映え」も狙う。
今後は、外国人観光客の増加を…